「あしたのまち・くらしづくり2010」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

フードバンクシステムを活用した地域支援活動
広島県広島市安佐北区 NPO法人あいあいねっと・フードバンク広島
はじめに

 はじめに、この活動を始めた動機について述べる。私は、病院・老人保健施設に勤務する管理栄養士である。入院患者が退院する時、患者の栄養状態を管理し退院後の栄養相談を受け持つ管理栄養士にとって大きな悩みのひとつに、退院後の特に高齢患者の自宅での食生活がある。退院後、身体的な理由で食事作りが困難になった上に、経済的事情で栄養面より安さを優先せざるを得なくなったケースを数多くみてきた。自治体が補助金を出している配食サービスでさえ高額で利用できないという高齢の患者もいた。
 また、要介護世帯や独居老人の急速な増加が社会的に注目され、大きな問題となっている。このような現実を放置することはできないと考えるようになった。管理栄養士として「食」を切り口にこの課題の解決の糸口を探った。そこで、注目したのが「フードバンク」というシステムである。この仕組みを構築し活用することで高齢者の「食」を支援しようと活動を開始した。


フードバンク

 「フードバンク」とは、市場経済流通できないなどの理由で廃棄される食品を、食品製造企業などから無償でもらい受け、それを必要としている要支援生活者を支援する団体に無償で分配することである。日本における「フードバンク」の取り組みは、2000年、東京都台東区でNPO法人「セカンド・ハーベスト・ジャパン」が、2003年には兵庫県芦屋市でNPO法人「フードバンク関西」が活動を開始した。続いて、NPO法人としては、全国で3番目に「あいあいねっと・フードバンク広島」もスタートした。一昨年頃から広がりを見せ、全国では、約30か所(2010年6月現在)で活動を行なっている。


NPO法人「あいあいねっと・フードバンク広島」の起ちあげと仕組み

 「もったいないの精神で限りある地球資源を守る」「誰もが尊厳を持ってその人らしい生活を営むことのできる地域づくり」この2つのコンセプトを掲げ、2007年11月に「フードバンク広島」の運営母体であるNPO法人「あいあいねっと」の設立総会を開催し、運営体制を決めた。フードバンク事業以外にも「世代間交流」「リサイクル」「ふれあいサロン」「配食サービス」を加えている。「あいあいねっと」を起ち上げる際、考慮したことは、地域が抱える課題は実に多種多様で、「フードバンク」の仕組みを作り活動を維持していくためには、「食べること」だけにとどまらないということだ。地域との共同作業で地域づくりに努めながら、同時に他方面の課題の解決を図ることが重要であると考えたからである。医師や看護師などの医療従事者、ケアマネージャー、ヘルパーなどの高齢者福祉関係者、環境カウンセラー、まちづくりグループなど様々な分野の個人や団体の賛同を得て活動を行なっている。


NPO法人「あいあいねっと・フードバンク広島」の活動の経緯

 「あいあいねっと・フードバンク広島」の起ち上げに際して、長年、管理栄養士として「食」の現場に立ち会ってきた経験から、食品製造関連企業等の協力を築いた。同時に、社会福祉協議会などを通じ、食料を受け取るパートナーシップ団体との関係も強化した。拠点となる事務所は、まちづくり活動を行なっているグループの紹介で、広島市安佐北区可部にある古民家に置いた。
 地域のイベントなどに積極的に参加し、マスコミの取材も多くあり、起ち上げから1年が経過した頃には、地域内外に認知されるようになった。2010年3月現在の協力企業は18社、パートナーシップ団体は19団体、個人活動賛助会員数は65名である。
 2010年3月末までに「あいあいねっと・フードバンク広島」が取り扱った食品は約25トンである。これらの食品は、「パッケージの印字ミス」「缶が凹んだ」「賞味期限が近付いている」など市場流通に乗らない理由で廃棄されざるを得ない運命にあった。


活動事例

1.フードバンク活動
(1)要支援生活者支援
○障害者作業所の昼食用に食品を提供 ○路上生活者支援団体の炊き出しに食品を提供 ○児童養護施設に食品を提供 ○母子支援施設に食品を提供
(2)まちづくり支援
○「地域の防災炊き出し訓練」に食品提供 ○環境保護団体による環境保護学習教材用に食品を提供 ○地域の祭り・イベントに食品提供 ○社会福祉協議会いきいきサロンの例会に食品提供 ○配食サービスを行なっている団体に食品提供
2.ふれあいサロン
(1)食育
○寄贈された食品を夏の子供料理教室で活用し、調理実習を行ない、環境と食べ物の大切さを子供たちに教えた。
3.世代間交流
(1)健康づくり
○救急救命隊による救命実技講習会を開催 ○理学療法士による転倒予防教室を開催 ○提供された食品を利用し減塩料理教室を開催
4.コミュニティレストラン事業
 2009年10月より、寄贈された食品を利用したコミュニティレストラン事業を開始した。食べることの安心提供で地域の高齢者の経済的負担の軽減をという当初の目的を果たす第一歩である。名付けて「まめnan」レストラン。我々は、寄贈された余剰食品からゴミのイメージを払拭させ、地域住民に親しみを与えるため「まめnan」と呼ぶことにした。「まめnan」の由来は、以下のとおりである。
「まめnan」の由来は、「まめ」とは広島弁で「元気」のこと。「まめなんね?」「まめにしよるんかいのぉ~?」 昔、まちかどでは、いつもどこかでこんな挨拶が交わされていました。私たちは、「まめnan」を通して、食べることや地域のことを考え、元気や健康づくりに活かす活動を展開します。(「あいあいねっと」パンフレットより)
 「財団法人広島・ひと・まちネットワーク」よりいただいた助成金を基に、「あいあいねっと」事務所の台所を厨房に改装した。営業は、毎週火曜日・金曜日の午前11時から午後2時まで。その時々に寄贈された食品を使いメニューを決めている。定番の「野菜あんかけうどん」と「おむすび」以外は、日替わりメニューである。野菜を多く使用し、高齢者の健康志向に配慮している。寄贈された食品を利用することにより、安価なメニューで提供することが可能となった。地元の女性達が調理やサービスなどを担当している。主婦としての経験が役立っている。マスコミの取材や口コミなどにより、「まめnan」レストランの認知が広がり、平均客数は約20名。多い時は、40名近くある。客の多くは、近隣地域の高齢者であるが、若い世代の客も増えている。2010年7月に実施したアンケートを集約すると、「安く食べられるので助かる」「雰囲気が落ち着いていて食事が美味しい」「会話が弾んで楽しい」などの多くの記載があった。それ以外にも「環境に対して関心が持てた」「食べ物を大切にしようと思った」「このような活動がもっと広がれば良い」などの声もあり、「あいあいねっと・フードバンク広島」のコンセプトが浸透しつつあることを実感している。
 厨房は地域にも開放している。地域の主婦のパン作り料理講習会や、地産地消の食材を活用した料理講習会などの利用もあり、サロンとしての機能も果たしつつある。また、「まめnan」レストランは、「あいあいねっと・フードバンク広島」の収益事業でもある。


考察・今後

 様々な分野で不安が拡大し閉塞感が蔓延し、安心安全な生活や暮らしが足元から揺らいでいる。食べることは生きることの基本であり、日本国憲法第25条でも謳われているように最低限保証されなければならない基本的人権である。その最低限の人権を守る一助となるよう、私は、長年の現場経験から「フードバンク」システムに着目した。「食べる」ことを保障する活動と共に、人と人、食と食を結ぶわれわれの活動が、地域を結ぶひとつの仕組みとして成果を生み出しつつあると思っている。その根拠となる理由を述べる。
○スタッフに医療、福祉、環境、地域づくりなどの専門家が多く、地域が抱える課題や要望を把握しやすく迅速的確に対応できる。○「食品リサイクル法」などにより企業の環境に関する理解が深まり「フードバンク」に協力するようになっている。○「フードバンク」システムを活用することにより、要支援生活者に心身とも好影響を及ぼしている。○拠点事務所がサロンとしての機能を果たすことにより、生き生きした地域づくりに一役かっている。○地域の人々の環境への関心の高まりの発信となっている。
 今後、「あいあいねっと・フードバンク広島」の活動をモデル化し、安心安全な地域づくりと共に環境保護意識を近隣地域に浸透させていくよう活動を展開していきたい。