「あしたのまち・くらしづくり2010」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

買い物の場から生まれるコミュニティづくり
富山県黒部市 三日市大町商店街振興組合
はじめに

 個人商店が閉店し、商店街がシャッター通りと化しているのは、全国共通の問題となっている。大型店の進出、店主の高齢化と後継者不足、多様化した消費者の要求に対応できない、人口の滅少など原因は多岐にわたる。連鎖的に商店が閉店し、終いには商店街自体が消滅することも今では珍しくない。
 その一方で、大店立地法が施行されて以降、大手流通業界が複合型商業施設の店舗展開を進めている。日用品を扱うスーパーはもちろんのこと、最先端をいくファッションショップ、シネマコンプレックスやボーリング場、多種多様な飲食店。そこは一日中いても飽きず、まるでテーマパークのようである。都市中心部や商店街が提供してきた施設がコンパクトにかつ効率的にまとめられたそれらの施設は、圧倒的な店舗数と広大な面積に比例して、商圏も広域にわたる。その中で今まで個人商店を脅かしてきたSCが閉店に追い込まれる例も見られる。閉店を余儀なくされ、建物のみ残して撤去していく。その後の商環境が壊滅状態になり、買い物難民が生まれる。特に、体の不自由な人や高齢者にとっては死活問題と言っても過言ではない。


お客さまの声から考えた「かって屋ふれあい便」

 ここ黒部でも「買い物は嫁に連れて行ってもらうけど、気ぃ使うっちゃ」「おいしい刺身が食べたいと思っても運転できんから行けんちゃ」「買い物がこんなに辛いとは思わんかった」「昔はしょうゆがなくなったらすぐに買いに行けたのに、今は近くに店がなくなって困ったちゃ」という声を聞くことが多くなった。
 私たち三日市大町商店街でもシャッターを下ろす店が多く、昔の活気は見当たらない。そんな中、今も営業している商店主たちが集まり、これからの店舗運営について話し合っていた。ふと最近聞いたお客さまの声を思い出した。自分たちに何かできないだろうか。そこで「かって屋ふれあい便」の案が浮上した。


「かって屋ふれあい便」って何?

 まず、「かって屋」とは、黒部商工会議所が空き店舗を改装し、「どうぞかってにご自由にお使いください」との考えから生まれた空間である。 NPOが入居しており、他に会議の場として一般の人に提供したり、気軽にトイレを利用することができる。ここに本部を置き、参加加盟店を募り、買い物難民を支援する事業委員会を創設した。できるだけ多様な店舗に加盟していただくために、商店主たちが地道に知人に声をかけたり、紹介してもらったり営業活動した結果、食料品店、衣料品店、日用雑貨店、薬局といった生活必需品を扱う店をはじめ、時計店、自転車店、介護用品店、建具屋など買回り品を扱う店にも入会していただいた。
 委員会では、紙上ショッピングモールをめざした、カタログを作成し、会員登録をしたお客さまに配布した。注文があれば、かって屋に常駐する2人のスタッフが対応した。商品の他に、電球の交換や、住まいのトラブル対応、冬には除雪の手伝いという有料サービスも実施することにした。


反比例する登録者数と注文数

 ところが、登録者は増えるものの、実際に注文する人は伸び悩んだ。委員会で話し合うと、「価格設定が高いのではないか」「配達料金がかかるからではないか」「カタログ自体に魅力がないのではないか」と厳しい意見が続出した。お客さまのことを考えて始めた事業のつもりだったが、結果的に採算性を優先し、掲載商品は利益率の高いもの、値崩れしない商品という販売側の都合が良いカタログになっていた。
 そこで、各店の紹介や、取り扱い商品の表示を行ない、カタログに掲載されている商品以外にも注文または問い合わせを受け付ける内容に一新した。同時にカタログだけでなく、商品が欲しい時にすぐ手に入る「生活便利箱」を作ることにした。


「生活便利箱」の浸透

 必要な時に切らしがちな日用品をあらかじめ箱に詰め、使った分だけ後で支払う仕組みの「生活便利箱」は、富山配置薬の「先用後利」がヒントとなった。入会金はいらず、希望する家庭に配置し、月に一度スタッフが商品の補充と使用した商品代金の回収を行なう。お客さまの要望で便利箱の商品を差し替えすることもできる。ちなみに便利箱の中味は、ゴミ袋、乾電池、香典袋などで、日常生活の中で突然切れて困るものは何か、委員会で何度も吟味して考えた商品である。
 便利箱の配置で、定期的にスタッフが訪問し、直接お客さまとコミュニケーションをとることができるようになった。「元気け?どうしとった?」という挨拶から始まり、世間話が続く。会話の中から、お客さまが欲している商品やサービスを知ることができるようになった。また、カタログの注文を受けたり、生活の中で不都合があれば提案や手助けをする機会が増えた。お客さまの声を受けやすくなったことは、事業運営の大きな味方となった。


楽しい買い物って?

 カタログの作成にあたっては、紙上ショッピングモールをめざした。買い物が辛いものであってはいけないし、楽しく、時には迷い、わくわくするものであって欲しい。実際、お客さまや高齢者の方へのアンケートを行なうと、「できることなら実際の商品を自分の目で見て買いたい」と考えている方が多いこともわかった。それならば、「お客さまの所に私たちが参りましょう!」ということで、移動販売を行なうことにした。


移動販売の場からコミュニティの場ヘ

 移動販売の方法は、所定の場所に簡易店舗を展開する形で開始した。場所は、黒部市の内山地区、黒部市の中でも高齢化率が41%と断トツに高い地区であり、食料品を買い揃えるスーパーまでは約5㎞、そのスーパーまでの交通手段は自家用車以外にはない。住民側からの要望もあり、内山地区の中心に位置する公民館の外の敷地で販売を行なうことになった。
 当初は、簡易店舗の設営にとまどったり、公民館側の規則もあり、スムーズに進まないこともあった。お客さまも数人しかいなかった。だが、回数を経るごとに、お客さまが増え、開店前に待っている人もいるほどになった。食品も扱っているので、「卵やパンを週に一度手に入れることができて良かった」と喜んでもらえる言葉が聞こえてきた。他に「この間買った○○、良かったちゃ。友だちにも進めたちゃ」という声の通り、評判の商品は売れ行きが倍増することもあった。「ここに来ると知っとる人ばっかりで楽しいわ」と購入したお茶や菓子を片手に井戸端会議が始まることもしばしば。本当の買い物は、ワイワイガヤガヤ、時には迷って買わなかったり、友人と商品談義をしたり、人が購入したものと自分が購入したものを比べて、今度はあれを買ってみようかと思案してみたり。その風景は楽しい買い物とはこうあるべきだと強く感じる瞬間である。現在、内山地区の他に黒部市の東布施地区でも移動販売を始めた。


これからの課題

 現在かって屋に常駐するスタッフの賃金は、「ふるさと雇用再生特別交付金」から支出している。この交付金の期限があと1年半後に迫っている。現在、加盟店の商品がカタログ、便利箱、移動販売で売れた場合、売上の10%をいただいているが、人件費や宅配車の維持、事務費などを支払える金額に至っていない。運営費を捻出するためには、やはり何らかの補助金が必要である。
 また、売上を上げるために移動販売先を増やすことを検討しているが、適当な場所がない。現在販売を行なっている公民館では、営利目的の販売が禁止されているため、かろうじて屋外で販売を行なっている。場所の確保が難題である。
 また、衛生上の問題から、生鮮品(肉・魚・乳製品)の販売が出来ないことも課題である。保健所の指導の下で行なっているので、生鮮品の販売が可能になれば新しい販売方法も見えてくると思う。


がんばって続けていこう

 課題は山積だが、お客さまから「ありがとう」の声を聞くと、続けていかなければならないと思う。
 我々は商店街の活性化を目標に掲げて活動してきたが、移動販売ではお客さんの数も限られており限界がある。そこで、将来的にはお客さんを商店街に連れてくることを考えている。実際いろいろな店を見て、商品に触れ、買い物する楽しみを味わってもらいたいと思う。お店側にとっても豊富な商品を提供し、定期的に来ていただくことで、固定客獲得のチャンスが広がる。黒部市は現在、定期的にコミュニティバスを走らせることを検討しており、これらの動きと連携して、商業の側面から市民の生活を支援していきたい。