「あしたのまち・くらしづくり2010」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

チャリティーハーブガーデンプロジェクト
東京都江東区 NPO法人Green Works
周辺状況の説明

 JR、りんかい線、東京メトロの駅が集まる「新木場」駅の南側。バスやタクシーの並ぶロータリーの背景を囲むように緑地があり、サクラの木が植えられ、東西に長い芝生の広場になっています。芝の部分に草が生え、年に数回草刈りが行なわれる以外は人の手がほとんど入らない空間でした。
 新木場駅周辺は、住宅よりも企業の社屋や倉庫が多い町で、駅の利用者も、近隣企業の社員やお客がメイン。また、大型のライブハウスがあり、そこでイベントがある日には、多地域から来た人たちでにぎわいますが、その直後にはゴミのポイ捨てが多い地域でもあります。


もともとのきっかけは地域清掃活動

 そんな新木場駅前に本社ビルを構えるNECソフト株式会社では、平成17年9月に「新木場エコチーム」を結成し、毎週金曜に地域清掃を始めました。江東区の「地域アダプト制度」に基づく活動である「わがまち江東きれいに活動」に参加し、自社の周囲を中心に新木場駅前広場や周辺道路を清掃する活動を続けています。活動を続けているうちに、参加する社員さんたちから「せっかく金曜にゴミを拾っても、週明けにはまたゴミが散乱している」「夏は緑地が雑草の海になってしまうので、これではゴミを捨てやすい環境になっているんじゃないか」といった声が上がるようになり、そんな中から「ひょっとすると、緑地に花を植えてきれいにしたら、道行く人がゴミを捨てにくくなるのでは?」といった声が出てきました。そこで、清掃活動の事務局をしているCSR推進部では、緑地に何かしらアクションを起こすことを検討し始めました。


NECソフトとGreen Worksとの出会い

 「花を植える」だけでは「きれい」で終わってしまうこと、その先にもっとつながる取り組みにしたい、というCSR推進担当者の思いから、「花ではなくハーブを植えると、その後の活用ができ、その先の何かにつながるのではないか」ということから情報収集を始め、ハーブを収穫してクラフトに加工し、それをチャリティ販売した売上げを社会貢献事業に寄付する、というアイデアが生まれました。その実現のために、江東区に相談したことから、区内のみどりのボランティア活動をコーディネートしている中間支援NPOを通じて当会、NPO法人Green Worksが紹介され、パートナーとして取り組むことになりました。


いよいよ活動始動!

 平成18年4月にガーデンを整備し、ハーブの苗を植え付けて、活動がスタートしました。
 「チャリティハーブガーデンプロジェクト」の流れを簡単に説明すると・・・①雑草だらけの緑地帯の一部をハーブガーデンに整備、②ハーブガーデンにハーブの苗を植え付ける、③育ったハーブをガーデンで収穫する、④収穫、乾燥させたハーブを使ってクラフト講習会を開催、⑤江東区のボランティア祭、区民まつりなどのイベント会場で社員とその家族が売り子になってクラフト作品をチャリティ販売、⑥その売上げをラオスの子どもたちの就学支援NGOや東京都「海の森」に植える苗木を育てる環境保全NPOに寄付、ということになります。景観向上という地域貢献から他国の子どもの就学支援という国際貢献や、地域の環境貢献へ、ハーブガーデンとそれに関わる多くの人々が紡ぎあげていく、大変ユニークなプロジェクトです。
 具体的な活動としては、毎月2回、就業時間終了後の時間を活用して、季節に合わせたガーデン作業やクラフト講習会を実施しています。実施にあたっては、NPO法人Green Worksがプログラムを立て、CSR推進部より社員への呼びかけを行ないます。
 ハーブを使った作業や講習会は、参加する本人自らが土に触れる作業やハーブの香りによって癒されることから、毎回会場にはたくさんの笑顔があふれます。さらには、いつかそのクラフトを手にする人、その売上げによって学校に通えることになる子どもたちや、将来、海の森に育つ苗木といった、具体的な目標があることから、そうした思いを温めながらの作品作りは、参加へのモチベーションを高めているようです。活動へのリピーターも増え、自らの取組みとして捉えて積極的に参加する社員が着実に増えてきています。また今年度は、会社の特性を生かした「リモート会議」による講習会を実施することで、他地域にある支社の社員の講習会への参加も実現し、出来上がる加工品の種類と数は年々増えてきています。
 それらを支える素材としてのハーブを植えるガーデンも、毎年、少しずつ増設を行なっており、当該緑地の地域景観向上としての存在感も、年々大きくなっています。


サークル活動 始動

 活動を始めて3年目の頃に、社員から「定時後の活動なので、家族も一緒に参加できないかな」「連続して参加することで、ハーブやガーデニングについての学びを深めたい」といった具体的な要望が出てきたこと、また、プロジェクトに対して愛着を持って関わってくれる「常連さん」が増えてきました。また、近隣企業とのガーデンを通した交流の中から、より主体的に、自由度を高める形で活動する仕組みが必要となり、平成20年4月に「ハーブガーデニングサークル」を立ち上げました。サークルメンバーは、メーリングリストで頻繁に連絡を取り合い、ハーブの活用や、ガーデン作業の情報交換を行なっています。CSR推進部が呼びかける定例活動のほかに、朝、通勤前にガーデンで収穫作業を行なったり、ランチタイムガーデニングとして、昼休みの時間帯にガーデンのお手入れ作業を行なったり、晴天が続いてガーデンに水が不足する時期などには、就業時間後に呼びかけあい、ガーデンの水やり作業を行なうなどの活動が活発になりました。こうした作業には、近隣の企業社員の方たちもサークルメンバーとして参加しています。最初は数名だったサークルメンバーも、今では社員のご家族も含めると50名を超えて、大所帯となってきました。


地域への広がり

 ガーデンを毎年増設し、クラフトで多く使うラベンダーを200株ほど植え付けたことから、ラベンダーの花が咲く季節には、ちょっとしたラベンダーの名所といえるほどになってきました。地域における存在感も大きくなったことからか、区内で活動するボランティア団体からの申し出を受けたことをきっかけに、江東区社会福祉協議会を通して、区内で活動するボランティア団体とのかかわりを持つこととなりました。プロジェクトの活動スケジュールを公開し、クラフト作りやガーデン作業に参加いただいています。今年は区内の幼稚園の園児たちの環境教育の場として、ガーデンでのラベンダー収穫体験を行ないました。幼稚園にとっては、区内にこのような体験ができる場所があるということが、大変な驚きだったようで、ぜひ来年も継続して行ないたい、との喜びの声をいただいています。
 また、ガーデンの増設の際には、地域産業「木のまち」のPRの一環として、木材を多用したガーデンを作ることによって、地域の木材問屋などの企業にも参加協力をいただいています。


今後のチャリティーハーブガーデンプロジェクト

 はじめは地域清掃における「ゴミを少しでも減らしたい、ゴミを捨てる人を減らしたい」という課題解決から始まったプロジェクトですが、ガーデンのハーブの成長とともにプロジェクトそのものも成長し、地域企業や地域のボランティアなど、多様な主体がかかわる「コミュニティガーデン」となりました。ハーブによって人と人がつながり、地域とつながり、さらには世界ともつながる…IT企業発信だからこその「コミュニケーション」への想いとこだわりを着実に実らせています。当初の課題であったゴミの減少はもちろん、かかわる人々のまなざしや手のぬくもりによって、ガーデンの存在感も大きくなり、地域のシンボルとなりつつあります。
 今後はさらに地域に溶け込み、地域に主体が移り、それを地域企業が支えるといった、仕組みにおける変換が起きるまでに成長できることを目指しています。