「あしたのまち・くらしづくり2010」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

「特産品づくり」からはじめた「島づくり」
兵庫県姫路市 NPO法人いえしま
NPO法人いえしま設立の経緯

 兵庫県姫路市の沖合、高速船で約25分。瀬戸内海に浮かぶ家島諸島は、東西26・7㎞、南北18・5㎞のエリアに大小40あまりの島々が点在して構成されています。そのうち人が暮らしているのは家島本島、坊勢島、男鹿島、西島の4島で、人口は合わせて約7000人です。家島地区はこれまで採石業、海運業、漁業の3つの基幹産業に支えられて発展してきましたが、景気後退や公共事業の縮減に伴い、採石・海運業が停滞し始め、島の経済に大きな影響を与えています。また、2006年に姫路市と合併したことにより、島内の問題に対応してくれる身近な存在であった町役場がなくなり、島の人の声が行政に届きにくくなるという状況が生まれ、さらに島の元気がなくなっていきました。
 こうした現状をなんとかしたいと地元の主婦たちが立ち上がり結成したのが「NPO法人いえしま(以下NPOいえしま)」です。現在家島本島を中心に16名のメンバーが活動しています。


これまでの活動

 NPOいえしまでは、コミュニティバスの運行補助や地域新聞の発行など地域住民のためのサービスを行ない、島内の活性化を図る一方で、家島を島外にPRするための活動も積極的に行なってきました。そのひとつが地域の基幹産業である漁業と連携した特産品づくりです。家島で獲れる海産物は非常に質が高く、島の人たちも「自分たちの島の魚は世界一だ」と誇りにしています。そして、漁業関係者の奥さんが多いNPOいえしまのメンバーはその「世界一」の魚を一番おいしく食べる料理法を熟知しています。そこで、地域の人が誇りにしている島のおいしい魚を地域の「おばちゃんたち」独自のレシピで調理し、より多くの人に届けることで家島の食の魅力を広く発信し、さらに島の漁業も盛り上げたいと考えました。
 何度も試作を繰り返しながら少しずつ特産品の開発を続け、現在20種類近くの商品を展開しています。初めは島内のお店や地域のイベントで販売を始めましたが、その後徐々に販売の場が増えていき、現在では姫路や大阪などの近隣地域だけでなく、東京などで開催される即売会でも販売を行なっています。
 さらに、2008年からはFAXで、2009年からはインターネットでも商品が買えるシステムを構築し、島外向けにいつでも特産品を販売できる体制が整いました。
 そして、昨年の冬からは東京などで展開する移動式レストラン「離島キッチン」でNPOいえしまの「炭火焼アナゴ」を使ったアナゴ丼の販売がスタートし、関東地方で常時家島の味が提供できるようになりました。
 このように特産品の販売は年々多様な展開を見せており、最近では関西地方だけではなく、北海道、東京、横浜、長野、島根、長崎など全国各地に顧客の輪が広がっています。


NPOいえしまのこだわり

 こうした活動において、NPOいえしまは常に3つのこだわりを持って取り組んでいます。
 1つ目のこだわりは大漁時の魚や規格外海産物の有効利用です。漁業は自然が相手のため、年や時期により漁獲量に差があります。魚が大量に獲れた場合は、どんなに質がよくても非常に安い値段で買い叩かれたり、流通にも乗らず破棄されたりしています。そこで、大漁時に値が下がった魚を漁師さんから適正価格で仕入れ、それを加工することで付加価値をつけて販売する取り組みを行っています。また、品質には影響がなくても見た目が少し規格から外れているため商品として出荷できない規格外の海産物も積極的に利用しています。
 その象徴的な商品がのりの佃煮「のりっこ」です。家島ではのりの養殖が盛んに行なわれており、島内にはたくさんののり工場があります。そうした地域の工場から、商品として出荷できない「やぶれ」の海苔を分けていただき「のりっこ」を生産しています。流通には乗らないといっても、もともとこの海苔は本来であれば巻き寿司などに使われる最高級品です。この素材の良さに加え、4時間鍋に付きっ切りで炊き上げる手間ひまのかけ方や、無添加無着色にこだわった調理法などが消費者の方々に評価され、現在ではNPOいえしまの看板商品となっています。
 2つ目のこだわりは「生産者本位の販売」という点です。たとえ特産品がたくさん売れて、島の漁業が一時的に活性化したとしても、生産性だけに固執し、魚を獲りすぎて海の資源が枯渇してしまっては本末転倒です。NPOいえしまでは大量生産大量販売を目指すのではなく、「作れた分だけ売る」という「生産者本位」の販売方法を行なっています。ともすればこのやり方は消費者の反発を招きかねませんが、家島の漁業の持続性を担保するためというこちら側の意図を消費者のみなさんに適切に伝えることで信頼を損なわず、この販売体制を維持できるように努めています。
 3つ目は特産品を通じた家島のPRです。特産品を販売する際に、商品そのものの情報だけでなく、家島の情報もあわせて発信することで、特産品を媒体とした島のPRを図っています。具体的にはパッケージや商品に添付するショップカード上に島の情報を載せ、商品を手に取った人に自然にその情報を目にしてもらえるよう工夫しています。最近では商品を販売するホームページ上でも家島に関する様々な情報の掲載を始めました。


活動が生み出した成果

 特産品の販売を始めてから4年近くが経ちますが、先述の「のりっこ」をはじめとして、大漁時の魚や規格外海産物を使った特産品は定番商品化しつつあり、島の海産物の有効活用が実現している手ごたえを感じています。
 また、島のPRについても着実な効果を生み出しています。中でも一番直接的にその効果を感じているのが即売会です。即売会では、瀬戸内島民ならではのメンバーの高いコミュニケーション能力を活かした呼び込みと、オリジナルのポスターなどを使い趣向を凝らした会場設営などを通して、積極的に島のPRを行なっています。その結果、定期的に出展している即売会でリピーターのお客様が増えているだけではなく、商品を買ってくださった方から「家島に行ってみたいので情報を教えてほしい」といった声を多くいただくようになりました。また、即売会での出会いがきっかけとなり先述の離島キッチンへの出品や地域バス会社のツアープログラムでの特産品の販売計画などにもつながっています。
 その他にも、テレビや新聞、雑誌など様々なメディアからの取材や、視察の申し込み、即売会などのイベントへの参加以来が年々増えており、地道なPR活動によって自分たちの取り組みが広まりつつあることを強く実感しています。また、特産品に関する取り組みが昨年度の国土交通省の委託事業として採択されたことも大きな自信になりました。


3つの新たな取り組み

 特産品販売が生み出した都市部との関わりや、島の認知度のアップといった成果は、新たな取り組みへとつながっています。
 その1つが「ゲストハウスプロジェクト」です。家島の知名度が高まりつつあり、島を訪れたいという人が増える一方で、島内の観光客を受け入れる体制が整っていない現状があります。そこで島内に増えつつある空き家をゲストハウスとして活用し、島外の人が気軽に宿泊できる施設の整備を目指しています。このプロジェクトではすでに3回のモニターツアーを開催し、ゲストハウスも試験的に運用しています。島に残る日本の伝統家屋の風情が利用者に大変好評で、島の観光資源としての新たな可能性が広がっています。また、昨年からは家島の観光のコーディネータ役となる「いえしまコンシェルジュ」を島外から公募し、養成講座や実地研修を通して育成を行なうことで、ソフト面の観光整備も進めています。
 2つ目は昨年からスタートした大阪の千里ニュータウンとのプロジェクトです。千里ニュータウンとは特産品の販売などを通じて関係性の構築を図ってきましたが、その成果が徐々に現れ、千里地区における家島の認知度が高まってきています。そこで、家島側から特産品を供給するだけでなく、特産品購入者などを島に招き、生産地見学ツアーを実施することで、都市部と漁村部との双方向の対流を図る取り組みを始めています。住民の方々に実際に家島を訪れていただき、特産品が生産、加工されている現場を見ていただくことで、NPOいえしまの特産品のよさをさらに深く感じてもらうとともに、地域住民との交流を通じて、家島の魅力を体感していただいています。そしてこの交流会の参加者が千里に帰ってから特産品のよさや島の魅力を周りの人に伝えてくださることで、口コミを通じて新たな「家島ファン」が増えつつあり、千里で定期的に特産品を販売してほしいという要望や家島を訪れてみたいという声を多くいただくようになりました。
 3つ目は、特産品を生み出す漁場を守るための活動です。これは特産品購入者などを対象に家島でエコツアーを実施し、家島の海洋環境をより身近なものに感じてもらうことで、その自然環境を守る活動への貢献意識の醸成を図るものです。一昨年度に試験的にツアーを開催したところ、参加者から好評を得たので、今後はプログラムを充実化し、定期的な実施を目指していきます。そしてゆくゆくはエコツアーを里海保全活動にまで展開させ、島の人と都市住民が協力して家島の貴重な資源である海の環境再生に取り組む仕組みづくりを実現したいと考えています。また、特産品の売り上げを還元し、海洋環境の保全に直接的に寄与できるシステムを構築し、瀬戸内海を里海として持続可能にマネジメントしていくことを目標にしています。


最後に

 家島を元気にしたいという思いから地元の主婦たちで始めた活動が様々なつながりを生み出し、特産品販売にとどまらず、島のPRや都市・漁村間の交流、観光、環境保全活動にまで広がりを見せていることは本当にうれしい限りです。これからも自分たちの島をよくするための「島づくり」という原点を常に意識しながら活動を続けていきたいと思っています。