「あしたのまち・くらしづくり2009」掲載 |
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
ふくし銀行があるまちづくり―人を大切にするまちづくり― |
兵庫県神戸市西区 井吹東ふれあいのまちづくり協議会 |
まちづくりのスタートは震災でした 神戸市の北西部、西区の中ほどに位置する井吹台は、市営地下鉄の延伸により1993年にまち開きをした典型的な郊外型ニュータウンです。平凡だったはずのこのまちの進路は、まち開きから2年後の阪神・淡路大震災により、否応なしに方向付けられることとなりました。 平成7年には応急仮設住宅群が建てられ、平成9年からは、3住宅、全20棟、延べ約1400戸の巨大な復興住宅群が林立、被災者の入居が進みました。当時、その中には単身高齢世帯の約350世帯(全世帯の25%、当時の西区平均は約5%)が一時期に入居され、高齢者や障害者を中心に、町への不案内、知人がいない、介護が必要、そしていわゆる孤独死・・・などといった課題が噴出したのです。 この時立ち上がったのは、何の経験もなく、組織も持たない小学生の子どもを持つ母親たち数人。頼みはその小さな〝つながり〟でした。口コミで広げた仲間の数は、たちまち数十人に広がり、まずは単身高齢者の訪問活動を開始、「ボランティアいぶき」として産声を上げました。 被災高齢者の支援活動は、前述の友愛訪問、周辺便利マップの配布、ふれあい喫茶の開催、季節イベントの開催などから着手しました。様々な団体による支援活動を調整し、団体間のネットワーク組織として「井吹台・地域見守り活動連絡会」を発足(平成10年2月)し、入居前交流会の開催、グランドゴルフ大会の開催と同クラブの発足、復興住宅の集会所では地域デイサービスを開始、週に2回(年100回)の給食サービス開始など、次々と被災者支援の輪を広げていきました。 総合的なまちづくりに着手 井吹台東町に続いて西町の造成が進み、こうしたまちの成長にともなって、ハード画、ソフト面の様々な課題が増加。神戸市による地域福祉センターの設置も、ちょうどこの時期でした。 平成11年には井吹東、続いて平成13年に井吹西ふれあいのまちづくり協議会を発足させ、被災者支援から始まった活動は、乳幼児の親子を対象としたサロンの開設、介護保険を学ぶ連続講座の開催、世代間交流活動、各種サークルの立ち上げ、給食サービスの拡充、防災福祉コミュニティの発足、各種ボランティアの人員拡大と、町のニーズに合わせたより幅広い支援活動、交流活動、地域福祉活動にも発展していったのです。 その間にも、突如巻き起こったテレクラ出店計画、猛毒のセアカゴケグモの発生、震災後の緊急需要のため急速に進む住宅開発…。普通ならゆっくりと進むはずのまちづくりは、こうした一つ一つの課題を克服するたびに、駆け足のうちに成長してゆきました。 子どもたちがまちづくりに? 2003年、井吹台中学校からこんな依頼がもたらされました。「生徒たちに震災の体験を話してほしい」「ボランティアの活動について話してほしい」。当時、私たちの活動は軌道に乗っていましたが、震災の話とは何を話せばいいのか? 自信はありませんでした。ととろが、そんな不安をヨソに子どもたちの反応はハッキリしていました。「今! このまちで何が起こっているのか」「これから! このまちに何が必要なのか…」。そうです。子どもたちの反応は、過去ではなく、今と未来に向かっていたのです。こうして当時はまだ珍しかった「井吹台ジュニア防災チーム」が結成されました。 ジュニア防災チームといっても、年中、防災訓練を行なうわけではありません。まちのニーズはまさに多彩…。地域防災訓練、救命救急講習会、防犯啓発パトロール、駅前クリーン作戦、涼風祭(夏祭り)、児童館夏祭り、西区健康福祉フェア、櫨谷川祭り、共同募金活動など、年間活動回数は10回以上にのぼり、防災・防犯のみならず、福祉活動や地域交流活動にも積極的に参加しています。 こうした様々な活動の中で、毎年の卒団式の際に行なう体験発表では、こちらが想像しているより、子どもたちははるかに大きな世界を体験しくれました。 こんどは大人のまちづくり 井吹台自治連合会では、平成18年より年間重点目標を設定指定しています。 これは、空き巣の頻発を何とかしたいという住民要望を受け、まずは明るい町並みを確保するため街灯を増設する計画を立てたことから始まりました。井吹台の開発主体は神戸市であり、行政に訴えることはもちろん考えましたが、本当にそれだけで良いのか? 住民がまずやるべきことはないのか? という検証作業を行ない、「門灯を点けていない住宅が多い」「違法駐車が多い」という、住民側の課題が2点、浮かび上がってきました。 「門灯点灯100%運動」「違法駐車0%運動を1年間展開し、夜間パトロールを兼ねて頻繁に門灯点灯率と違法駐車台数をチェック。単位自治会等を通じて各世帯に働きかけていった結果、点灯率も上昇し、数値データを作成の上で、神戸市に街灯増設を要望し成果を上げることもできました。 そして、翌年の重点目標は、「ルールとマナー、大人が守れば子どもも守る」。 前述のジュニア防災チームから出された意見をもとに、自治連合会で度重なる協議を行ない、「ポイ捨てをやめよう!」「信号を守ろう!」「不法駐車・駐輪をなくそう!」など五つの具体目標を挙げ、子どもにも大人にも周知・啓発を徹底。まずは家族の中で話し合ったことが地域活動に広がり、次第に〝地域力〟へとつながってゆきます。 福祉避難所を作ろう 被災高齢者の支援から始まった井吹台のまちづくりですが、井吹台東町においては、災害時における地域の避難施設として市立井吹東小学校が指定されています。しかし、阪神・淡路大震災をはじめ、近年、各地の災害時における避難所運営の経験から、単身高齢者・障害者・乳幼児を伴う等の要支援世帯が、小学校等一般の避難所においては、階段の昇り降り、トイレの使用、移動や順番に並ぶことなど、生活のあらゆる面において精神的にも肉体的にも極めて困難を伴うことから、要支援者が避難所の利用そのものを諦めたり、健康を害する可能性が高いことが分かってきています。 そこで一般の避難所とは別に、日頃から要支援者になじみが強く施設の規模的にも適切と思われる井吹東地域福祉センターを、井吹東要支援者避難所(仮称)として神戸市に指定していただくとともに、これを行政と地域住民が一体となって運営する仕組みについて現在、地域の様々な団体と行政関係機関の参画を得て、継続的な検討会を開催し,議論を積み重ねています。 福祉避難所の利用者は、単身高齢者、障害者、乳幼児を持つ世帯を原則とし、単独での移動、食事、排泄等が難しい方としています。しかし、いざ避難所の運営マニュアル作りに着手してみると、地域福祉センターにいったい何人が泊まれるのか? トイレは本当に使えるのか? 生活の施設として不備はないか? スタッフの体制はどのようなものが必要なのか? と、わからないことばかりでした。 そこで私たちは、実際にセンターを使用し、本当の高齢者に参加協力をいだいて、福祉避難所の運営訓練を行なうこととしました。そしてこの訓練は、実は運営マニュアル作りの実務のためだけではありません。訓練の様子を公開し、平常時から要支援者避難所の存在を広報することにより、災害発生後に初めて判明するであろう要支援者にも、事前の周知を広げる効果も期待しています。何を始めるにも、まずは「まちの話題」となることで、住民の意識も自然と高まってゆくものだと思うのです。 さらに今秋、いざという時の心肺蘇生法などを身につけた「市民救命士」を大幅に増員するため、「市民救命士」を養成する「救急インストラクター講習」を神戸市消防局との連携により実施します。この講習には3日間24時間の厳しいプログラムを修了する必要がありますが、インストラクターの養成→市民救命士の大幅増員、を地域住民自身の手で進めることにより、井吹台における救命率の向上をめざすととも、周辺地域へのインストラクター派遣など、地域全体での大きな取り組みとして発展させていきたいと考えています。 福祉銀行を作ろう 次第に高齢化が進む井吹台、そこで井吹東ふれあいのまちづくり協議会を母体として、平成18年から家事援助活動を展開してきました。これは、障害者や高齢者を対象として、1時間につき500円で外出介助や簡単な家事を行なうもので、ヘルパー1級、2級の資格を持つ限られた専門スタッフがサービスを提供するものでしたが、現在、これをさらに発展させて「井吹ふくし銀行」として再スタートを切ろうとしています。 ふくし銀行では、高齢者や障害者以外にも、例えば乳幼児を持つ世帯などにも対象を広げ、散歩介助、話し相手、留守番相手、日常外の掃除や買い物など、介護保険サービス等では対象外となる家事援助を中心として、有資格者だけでなく、サービスによっては必要な研修を終えた資格のないスタッフにも広げています。 ふくし銀行では、活動者も利用者もまず会員登録していただきます。年会費は1000円、利用する場合は30分につき350円です。 まず、会員登録した利用者のお宅を専門の資格を持ったコーディネーターが訪問し、生活の状況を聞き取ります。そして、ご希望の日程でサービスの内容に合ったワーカーさんを派遣するという仕組みです。ワーカーさんは活動時間をふくし銀行に貯金して、自分が必要となったときに使えるほか、一部を現金で受け取る選択肢もあります。 ワーカーの中には、将来的にもサービスを利用しない方も出てきますが、それはそれで一番幸せなことだと思うのです。会員には、こうした趣旨を充分にご理解いただき、専用の貯金通帳をお渡しすることで、賛同者の輪をどんどん増やしていく予定です。 必要なことから… できる人から… まちづくりの活動は、大人も子どもも基本的には変わりありません。ポイントは〝納得〟〝共感〟ができるかどうか。これがいちばんの成否の分かれ目だと考えています。 何のために自治会費を集めるのか? 何のために防災活動を行なうのか? 何のための募金運動なのか? 何のために門灯を点けるのか? すべて、「何のために」という納得が、運動を展開する際のキーワードです。今までも、高齢者の孤独死をなくしたい、テレクラの出店を阻止したい、空き巣の被害を減らしたい… すべて「何のために」を、訴え続けてきました。 これからは、子どもでも、若者でも、勤労者でも。乳幼児を持つ母親でも、障害者でも、高齢者でも…。誰かが誰かを助けるべきとか、誰かが誰かを守るべき、ではなく、誰もができる範囲でその人にできることから、納得した人が行動する…。だからこそ持続するのです。 それが、私自身を含め、みんなでできる井吹台のまちづくりです。 |