「あしたのまち・くらしづくり2009」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

フットパスボランティアと自治体が協働で取組む「フットパスによるまちづくり」
北海道黒松内町 黒松内町フットパスボランティア
活動拠点の概要

 私たちの活動拠点である「北海道黒松内町」は、北海道南西部にあり、札幌市と函館市のほぼ中間点に位置し、日本海と太平洋をわずか28キロで結ぶ間にありながら直接海には接することのない特殊性を持ち、町の面積のうち76%が森林で、町土のほとんどが丘陵をなし、中央部を朱太川が貫流して、これを幹線とした中小河川の流域の平地部に農地を形成しています。
 基幹産業は、酪農を主軸とする農業で、道南屈指の酪農の町。

まちづくりの歩み

 黒松内町には、殆どブナの純林状態で自生している、面積約92ヘクタールの歌才ブナ林があります。
 歌才ブナ林は、市街地と隣り合わせで、人々が気軽に散策できる場所にありながら手付かずの状態であったことが学術的に評価され、昭和3年に国の天然記念物に指定されています。
 町は、この天然記念物「自生北限の歌才ブナ林」を核とした豊かな自然環境と農村の生業が生み出す牧歌的風景を潜在的資源と位置付け、可能な限り地域内の人材・資源を活用し、ヨーロッパの農村のように都市の人々を招き入れ交流を図る体験・滞在型のまちづくり「ブナ北限の里づくり」を平成元年にスタートさせました。
 週末や長期休暇を田舎でのんびりと過ごすヨーロッパの習慣を取り入れるため、最初に自然体験学習宿泊施設「歌才自然の家」が整備され、ブナ林散策、子どもたちの野外活動の拠点がつくられました。
 次いで、体験工房を備えたブナセンター、キャンプ場、温泉、道の駅などの順に拠点となる交流施設が整備されるとともに、ブナ林観察会、ビーフ天国、かんじきソフトボール大会など、黒松内の地域特性や生活文化を生かした様々なイベントも開催されてきました。
 加えて、ヨーロッパの農家民宿の様に手づくりのチーズ・ソーセージ・パン・ワインなどをお客様に提供するため、地場の産物に付加価値を加える形で、「特産物手づくり加工センター」製チーズとソーセージ、「特産物展示販売施設」製パン、地場産ぶどうを原料にしたワインをそろえ、オリジナルの味を用意しての来訪者のもてなしに力を注いできました。
 また、北限のブナ林や美しい農村を次代に引き継ぐため、景観や環境を保全するための条例を制定し、奨励制度を設けて住宅の色彩配慮や廃屋撤去などの修景整備にも取組み、今年3月には、景観行政団体となり、一層優れた農村景観づくりが進められています。


まちづくりから生まれたフットパス

 こうした取組みによってまちの魅力がアップするにつれて、交流だけでなく移住する方々が現れ始め、彼らによる民宿や環境雑貨店経営、木工や食料品製造などといった経済活動のほか、地域内でのコミュニティ活動などが盛んに行なわれるようになり、まちの人材と資源は一層増えてきました。
 しかし、交流人口の多くは通過型ドライブ観光で、本当のまちの良さを分かっていただいておりませんでした。
 イギリスには、国内にくまなく自然発生した小道「フットパス」が張り巡り、美しい自然景観、懐かしい田園風景、古い街並みを結び、多くの人々がそのフットパスを余暇として歩き楽しんでいます。
 町は、訪れる都市の方々にも、「歩く」スローな視点から、車では見過ごしがちなまちの自然や環境のすばらしさを注意深く見つめていただき、満喫してもらうために、これら既存の魅力ある地域資源としての交流スポットを有機的に結び付け、一層魅力あるものにするため、イギリスのような「フットパス」を整備することが有効と考えました。
 そして、平成16年1月町長の諮問機関である「まちづくり推進委員会」からフットパスに取組むには、ボランティアを募り行なうべきとの意見を踏まえ、広報誌でフットパスの紹介を兼ねてボランティアを募集し、平成16年6月当ボランティアを組織して、フットパスの取組みをスタートさせました。


資源を結ぶフットパス

 まずは、フットパスを実際に歩き、コース整備に役立てるため、本場イギリスへのフットパス研修等の先進地視察を実施、次にフットパス化可能コースの選定、そして、これまで幾度もまちに訪れていた都市の方々の協力もいただいて廃道同然だった道路の笹刈り・草刈り作業などを重ね、ようやく最初のコースを整備し、同年10月に歩き初めのイベントを開催しました。
 このコースは、黒松内市街地と白井川地区に挟まれる東山を越える起伏に富んだ「チョポシナイコース」で全長約10キロ、道端では小動物の足跡や山ぶどう・コクワ・どんぐりといった実のなる木などがあり、とても魅力的な自然に接することができるコースです。
 さらに、第2のコースとして、実際に現地を歩いて調査した上で、歌才自然の家から特産物手づくり加工センターまでのなだらかな草地が広がり本場イギリスを髣髴(ほうふつ)させる「西沢コース」(約10キロ)を選定しました。
 平成17年度は、チョポシナイコースに廃材を利用した手づくりの道標を整備、案内プレートの進行方向は矢印ではなく、ボランティアスタッフのアイデアで足跡の向きで示しました。
 また、8月には全道イベント「第4回全道フットパスの集い」を開催。
 同年10月、完成したばかりのチョポシナイコースと西沢コースを接続できる、市街地を縦断する遊歩道のウォーキングイベントを実施し、これを第3のコース「寺の沢川コース」(約2キロ)として選定しました。
 平成18年度は、寺の沢川コースなどに36基の標識を整備、平成19年度は、各コースの起点・終点への手づくりコース案内看板の整備、フットパスマップの作成などを行ない、初めての人でもマップを片手に安心して歩くことができる総延長約22キロのフットパスコースが完成しました。
 これら3コースの整備によって、途中の「歌才自然の家」を利用して1泊2日で町内に点在する各交流施設や移住者のお店、豊かな自然と優れた景観など、まちの魅力を存分に楽しめるようになり、フットパスによる体験・滞在型観光の基盤が固まりました。
 フットパスに取組んで5年目の節目の年を迎えた平成20年度は、国内では初となるフットパスに関する国際的イベント「フットパス国際フォーラムin黒松内」を開催しました。
 フォーラムには、本場イギリスのウエールズランブラーズ協会からフットパス監督官を招聘して、フットパス本来の思想や歴史、楽しみ方、イギリス国内におけるフットパス事情などを分かりやすく講演していただいたほか、国内で先進的に取り組まれている方々とのパネルディスカッション、各地の事例発表、全コースのフットパスウォークなどを行ない、全国各地から119名の参加者を得ることができました。
 この催しを契機に複数の旅行会社から札幌・東京発着のフットパスツアー催行に伴うコースガイドの依頼があるなど、まちとフットパスに寄せる関心は、一層高まってきました。


都市と農村の交流を広げるフットパス

 このようにフットパスが注目を浴び始めた最中、全国でフットパスを活用して地域おこしに取り組む3市2町とNPOなどの6団体、1個人がフットパスによる体験・交流型の観光振興を目指し、フットパスを全国に普及するために初の全国組織「日本フットパス協会」を今年2月に発足させました。
 黒松内からは、首長が協会役員に就任するため、まずは町が協会に加入することとなりましたが、東京都町田市で開催された協会設立記念シンポジウムには当会から7名が出席し、国内における活動家の1人としてパネルディスカッションのパネリストに選ばれた当会の新川会長が、鉄道の枕木を再利用した案内板の整備のほか、除草作業、道標補修、イベント開催など、ボランティアとまちの協働によるフットパス活動の事例を来場者に紹介しました。
 このように当会では、今ある道を活用し、下刈りするなどして、自然に負荷をかけることなく新たに歩くことのできる道を見つけ、作るなど、お金を掛けずに取組めるフットパスに自治体と手を携え、役割分担しながら一緒に汗を流してきました。
 6年間地道に取組みを積み重ねた結果、近頃はイベントやフォーラムの記事が新聞・雑誌に大きく掲載され、全国放送ラジオにも出演して取組紹介したことで、当会の活動、「フットパス」という言葉、そしてまちの魅力は、一躍全国的に認知度がアップし、コースやイベントに関する問い合わせや活動の取材を受ける機会が一段と増えたとともにフットパスを歩き楽しむため、週末や祝日を問わず平日でも都市や近隣町村からまちを訪れる方の姿をコース上で多数見かける様になりました。
 今年に入りこれまで3回開催したイベントの参加者は189名に上るほか、当会で把握しきれない団体・グループでの利用者も多数あることから、フットパスで結ばれた点在する交流スポットでは、大きな経済効果が生まれています。
 また、まちづくりの根幹をなす「ブナ北限の里づくり構想」が、私たち住民からの提案で始まったことから、各ボランティアが自然環境・景観・文化・食といったまちの魅力とフットパスに関する豊富な知識を兼ね備えて、適切に来訪者に伝えられるための学習会の実施、フットパスが健康促進や観光面での経済効果を生むといった歩くことの本当の価値を多くの方に理解を広め、コースの魅力アップの協力を得るための普及・啓発活動など、常に質の高い体験・交流を実現しようと積極的に活動しています。
 そして、これらの活動の中から、ボランティアの1人が地元産の根曲がり竹を使用したオリジナルグッツ「アルカサル(フットパス用手づくりストック)」を開発し、販売を始めるといった主体的な取り組みも生まれています。
 このように当会のフットパス活動は、点在する地域資源を結び付けるとともに、人と人の交流によってまちづくりの原動力となる人を育み、成長させるなど、大きな成果を挙げています。
 今後も町との協働によるまちづくりを活動の基軸に据え、まちの豊かな自然環境と優れた農村景観を保全するとともに持続可能な利用の仕方で来訪者に提供しつつ、農家や商店街など地域と連携した黒松内流のフットパス事業を展開して、ブナ北限の里らしい都市と農村の交流を実現するため活動していきます。