「あしたのまち・くらしづくり2009」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

住民が運営する路線バスとして「日本一の乗客数!」と高い評価を受ける
京都府京都市伏見区 醍醐コミュニティバス市民の会
はじめに
 平成21年7月5日(日)午後1時35分に、京都市伏見区東部の醍醐地域(約2万2000世帯、人口約5万4500人)を走る「醍醐コミュニティバス」が、NHK総合テレビ番組「いよっ 日本一!『路線バス日本一』」で「日本一の乗客数!」として、全国に紹介されました。
 その中で、高齢者の地域の利用者は、インタビューで「このバスがなかったら、買い物も誰かにお願いしないといけない。何よりも有難いわ」と応えました。
 今や地域住民にとって「大切な足」となり、本年2月15日に運行開始5周年を迎え、「5周年記念式典」を京都市長、府知事代理、近畿運輸局京都支局長らの出席のもと盛大に開催することができた。そして、4月1日には乗客数が200万人を突破した。
 年間57万人(1か月当たり4万7500人(平成20年度))の乗客を乗せて爽快・快調に走り続けている、市民の手作りによる「市民共同方式」で全国初のコミュニティバスにも多くの課題を克服しつつ運行している状況がある。
 これまでの経緯や現状を以下のとおり記述する。


コミュニティバスを走らせるきっかけは?

 平成9年10月、市営地下鉄東西線(当初は醍醐駅まで)の開業によって、京都市が醍醐地域での市バス削減方針を打ち出し、業務自体も民間の京阪バス(株)に委託された。
 利用者数が少ないという理由で、ある路線は廃止、またある路線は1時間に1本、30分に1本と減便され、特にお年寄りの足には相当こたえた。「これはなんとかしなければならない」と、醍醐地域には、小学校区が10校区あり、その自治町内会と6校区の地域女性会の役員が中心となって、平成13年9月12日に「醍醐地域にコミュニティバスを走らせる市民の会」を発足させた。
 醍醐地域には、高台や坂の上に住宅が多くあり、70歳以上の高齢者も多く、交通弱者の多い地域にもなっていた。
 「市民の会」は初め、金沢市の「ふらっとバス」の運行状況を見学して勉強する一方で、京都市交通局などにバス路線開設への陳情・請願活動を行なっていたが、自治体だけに頼っても仕方ないと判断した。そこで、「市民の会」は活動方針を変更して、「市民による、市民のためになる手作りのコミュニティバスの運行」を目指すことにした。
 また、業務運行委託先には、路線バスの事業進出に前向きであった株式会社ヤサカバスの協力を仰ぐこととした。


運行計画を策定し、国に認可を申請

 近畿運輸局の認可を得るには、経費を含めた運営の目途をしっかり立てる必要があり、約2年半を費やした。「市民の会」では、住民の意見を取り入れるため、市民フォーラムを開催して運行計画の素案を提示し、200名余りの住民が集まって、活発な議論をすることができた。また同時に、各学区での住民の集いに出席して意見交換をしたり、醍醐地域の約2万2000世帯にアンケート調査を実施して、「みんなのバスが走ります」「一緒にやりましょう」と根気よく呼び掛けを繰り広げた。
 「市民の会」のスタート以来、100回以上に及ぶ住民説明会、役員会や運行管理委員会を重ね、周到な準備をして、平成16年1月にようやく運輸局の認可を受けることができた。そして、翌2月16日、運行開始にこぎつけ、真冬にもかかわらずマスコミ取材陣の多さにびっくりすると共に、喜びもひとしおであった。
 運行後は「醍醐コミュニティバス市民の会」と改称し、任意団体の組織として運営している。会長、会長代行、副会長、事務局長、事務局次長2名、会計1名を執行部とし、幹事10数名、会計監査2名、それにアドバイザー1名が名前を連ねている。
 月に1回、運行管理委員会を開催し、運行業務状況、収支面、利用促進活動、オリジナルグッズ(これまでのものは「コミバスチョロQ」、「記念乗車券」、「扇子」、「ストラップ」)の販売方法等について協議、決定を行なっている。


企業からの協賛金を主な財源にしてスタート

 資金が全くゼロからのスタートのため、企業からの支援金が欠かせませんでした。
 利用者の運賃収入のみで経費を賄うことはできないので、パートナーズ支援として沿線の企業、福祉施設、保育園、商業施設、病院や市民から資金を出し合っていただくことにした。そのうち4社に大口のメインパートナーになっていただき、財政的基盤を作った。それにA、B、Cの各パートナーズを作り、20数社に協力を頂いた。パートナーズ支援金の月額は、Aが2万4000円、Bが1万5000円、Cが9000円である。
 多くの企業から、車内への広告、PR、宣伝アナウンスを、バス停留所にも広告を出してもらっている。さらに個人サポーターの制度もあり、年間1口3000円、同1万円の呼び掛けに、200人余の住民が応じてくれている。


運行状況

 路線数は現在、5路線(当初は4路線)で運行しており、総延長35キロ、バス停は200メートル間隔で109か所を設け、1日170便で運行時間は、午前7時台から午後7時台というダイヤとなっている。路線網や時刻表は利用者目線に立って作成した。バス車両は小型にして、細い路地にも入れるようにして、バス台数は38人乗り3台、14人乗り1台で、1回の運賃は、大人200円、小人(小学6年生まで)は100円です。1日乗車券300円が利用者の人気を高めている。
 バスは、住宅地をきめ細かく、小回りの利くサービスを提供しており、病院への通院や買物の足を確保して、地域住民の生活向上に大いに役立っており、沿線の住民からは大変喜ばれている。
 コミュニティバスの導入によって、地域の高齢者には特に便利になり、外出の機会が増えた。「家の近くまで来てくれて、まるでタクシーみたい」「1日300円で病院へ行った後、買物にも行くことができてうれしい」など、住民に高く評価されており、苦情は皆無に等しい。ほぼ定時運行が確保できており、信頼性をより高めている。
 運行開始から5年が経過して、醍醐コミュニティバスは地域住民の足として見事に定着した。


高齢者と観光客の利用で乗客増

 京都市では、70歳以上の高齢者に「敬老乗車証」を、障害のある方に「福祉乗車証」を発行しており、醍醐コミュニティバスにも平成18年10月から、乗車出来ることになった。このことにより、高齢者の乗車が大幅に増加したが、その反面、現金収入が少なくなった。そのマイナス分を京都市に負担してほしい要望を出しているが現在は困難な状況である。
 また、太閤花見行列で有名な醍醐寺のお花見や秋の紅葉の季節などには、京都観光に訪れる大勢の観光客の方に利用していただけるように、株式会社ヤサカバスとのとり決めで臨時バスを運行している。その間、醍醐地域の自治町内会、地域女性会、各種団体の役員などの延べ200名余りがボランティア活動をして、観光客の誘導にあたっている。


今後の課題

 まず、「平日に比べて、日曜日や祝日の利用者が30%ほど少ないので、いかに利用率アップを図るか」であり、次に、A、B、Cの各パートナーズの協力支援、個人応援団の増加を図ることである。


結びに

 強いて成功の秘訣を挙げるとすれば、醍醐地域という土地柄に恵まれ、役員会のコミュニケーションがよくとれていること及び役員一人ひとりの地域貢献へのボランティア精神が富んでいること、さらには、住んでいる人たちの愛・熱い思いなどがあいまっての結果ではないでしょうか。