「あしたのまち・くらしづくり2008」掲載
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

“学校”が“楽校”になりました。さぁ、自然の中へ。
熊本県菊池市 特定非営利活動法人きらり水源村
 「きらり水源村」は地域の普通のおじさん、おばさんのつくったNPOです。
 「いつまでも住んでいたいなあ…」「はじめて来たけど、なぜか懐かしいなぁ…」という懐かしい未来志向のムラをつくろうとしています。ここに住んできた人とひょんな縁からここに住むことになった人たちが活動を支えています。
 自分の住んでいる地域でまちづくりを実践していくことは難しいことでもあります。しかし、「このままではラチがあかん」と思った人々は自ら行動し、そしてその行動と結果を残すことで、自分の周りの人を少しずつ変化させていきました。その物語をお裾分けします。

 大分県中津江村と県境をはさむ熊本県菊池市は、県の最北東部に位置し、阿蘇山の外輪の山々から湧き出る豊かな水に恵まれた水源地区で、温泉の街として知られています。
 2003年5月、「きくちふるさと水源交流館」はオープンしました。菊池東中学校(旧水源中学校)の閉校を受け、愛着のある木造校舎を地域活動と都市山村交流の拠点に活かしていきたいと熱望する地域の人たちが、菊池市と交渉し実現しました。
 オープンするまでの3年間は、地域のみんなで「ここで何をしようか」相談しながら、準備をしてきました。地元を離れた卒業生が、校舎で同窓会ができたらいいな。お年寄りがここでお茶を飲みながら、昔話に花を咲かせられたらいいな。子どもたちの声がまた校舎に響いたらいいな・・・と。たくさんの意見が出されました。

 校舎は50年以上前に村有林を使って建てられました。地域住民は、学び舎(旧菊池東中学校跡地)を有効活用しようと、グリーンツーリズムを始めとする体験や交流の拠点施設として、親子農業体験イベント(おいしい村づくり)や子どもの長期自然体験型キャンプ(子ども村)を中心に体験活動を続けてきました。そして、地元協議会を前身として、2004年1月にNPO法人きらり水源村が設立され、地域に残る伝統文化や生活技術、豊かな森と水に囲まれた自然を「子どもや孫、そのまた孫に」を合い言葉に、今現在、菊池市から「きくちふるさと水源交流館」の企画運営・施設管理業務を受託されています。
 水源地区で、まず始めたこと「おいしい村づくり」
 親子で過ごす山里の四季。ゆっくりたっぷりの食・農・自然体験。菊池水源を舞台に、棚田での昔ながらのお米づくりを中心とした1年間のプログラムです。春のたけのこ、夏の茄子、四季折々の食材をみんなで収穫し、味わい、渓谷から流れる水の恵みを実感します。みんなで一緒に働いたあとは、ゆっくりたっぷり時間をつかって、おいしいごはんと季節のあそびで山里の暮らしを満喫してもらっています。
 また、同時期に始めた、「子ども村」
 山も川も田んぼも畑も、全部楽しい自然の学校。子ども村での1週間、子どもたちは親元を離れて自然の中で生活します。川で遊んだり、田んぼや畑に入ったりと、自然の中で日ごろできない様々な体験をします。ゆったりとした時間や環境の中で、子どもたちは自ら考えて行動するようになります。遊んだり、友だちをつくったり、冒険にも挑戦します。
 子どもが主体的にやりたいことに、思い切りチャレンジできるように、親も地域もスタッフも一丸となって取り組んできました。
 その他にも、裏山竹林を活用「森のようちえんごっこ」(不定期開催)、岩下神楽の伝承活動「きらり神楽教室」は、毎年8月~10月の毎週金曜日夜に開催、地域の子ども対象の「水源子どもの広場」は毎週土曜日午後に開催しています。
 食に関する取り組みもおばあちゃんを中心に郷土食の記録や食の文化祭を開催してきた。地域のおばあちゃん、お母さんたちが、四季折々の家庭料理を持ち寄り、地域でどんな食材が生産され、どんな調理・保存方法がされ、どんな食べ方がされているのかの掘り起こしを行なってきました。
 海外との交流も盛んに行なっており、毎年9月からの3か月間はワークキャンプの受け入れを通して、国内外の若者が地域に滞在し、農作業の手伝いや森林の下草刈りやしいたけ栽培などの自然体験、地域行事への参加や学校訪問等を通じて、国際理解や相互の交流を深めてきました。
 韓国との繋がりでは、IWOの日韓森づくりワークキャンプに始まり、メンソン自然学校の自然学校プログラムで親子38名が訪れ、サムルノリ教室を大学生が開く中で、水源独自の韓流ブームとなり、韓国農業技術者協会や韓国ユネスコ協会連盟の協力を得て実施した「おばあちゃんの修学旅行@韓国」では、60~70代のおばあちゃんが韓国の農山漁村を訪れ、魂を通じたココロの交流を通して、本物の国際親善が図れ、前回は韓国から農村指導者の皆さんが訪れるキッカケに繋がりました。

 開館以来の施設利用状況は、来館者・利用者数で6万4000人を超え、補助金を活用した校舎の2度に渡る改修工事も終わり、宿泊施設、レストランができました。さらに地域住民とボランティアの手で石窯やかまど、野外炊事場、五右衛門風呂や作業小屋が作られました。施設を訪れた人からは、「足を踏み入れた瞬間にタイムスリップしたような懐かしい気持ちになる」「水源は自然環境も人も理念も含めてとても親近感を感じました」等のお礼の手紙やメールが届いたり、地域住民にとっては、「来訪者との交流で、故郷の良さを再発見できてよかった」との声があがり、地域の活性化にも徐々につながっています。少しずつ活動が『他人事』から『我が事』として実感して理解して協力するようになってきました。
 集落を守り育ててきた住民とサポートする行政、縦横無尽なNPOが少しずつ知恵を持ち寄り、力を合わせることで、子どもたち、お年寄り、そしてやがて故郷に戻ってくる人々の居場所が少しずつ整いつつあります。本当の「豊かさ」をしっかり守り育ててゆける社会のモデルづくりが少しずつ進んでいます。
 その背景には、経済や情報のグローバル化が進んだ今こそ、「本物」「本音」「本気」を実感できる場が社会的に必要になってきており、「世界をみつめ考えながら地域の活動、足元の活動からはじめよう」というThink Globally Act Locallyの合言葉、自らが調べ、自らが考え、自らが行動する。地域のおばあちゃん・おじいちゃんが先頭に立って活躍する「きらり水源村」の活動は、そういった意味で非常に価値があると思っています。
 また、私たちの活動の特徴である、集落住民が全戸参加していること。廃校舎を活用していること。地域に根差していること。校区コミュニティで展開していること。交流・対流を積極的に促進していること。収益活動と公益活動を併せ持つこと。持続可能な地域経営を目指していること等は、全国どこでも明日からでも実践できるという勇気を視察研修に訪れる多くの方々に与えています。
 地球温暖化・食糧危機・エネルギー問題等の悲観的な地域や地球の未来に打ちひしがれず、まずは足元にある暮らしの中でわれわれに必要不可欠な知恵や経験や技を見つめ直し、暮らしの質や家族の幸せを問い直し、経済の自立、食料・木材・エネルギー自給を早期に実現し、地域自治を確立することが最終目標です。そして、自分たちの地域を見つめ直すため、自分たちの地域に良い点を活かすために、「共感」「志」で繋がる他地域との「ひと」「もの」「こと」交流・対流も積極的に進めています。

 日常の取り組みを発信するために綴ってきたブログは6万ヒットを数え、関係者向けのメール通信も20回を数えました。トヨタ自動車の開発するカーナビと連動する『Gazoo mura プロジェクト』も遂に始動し「マチ」×「ムラ」と「ムラ」×「ムラ」の交流が進んでいます。体験内容や交流館での日々の様子を発信しはじめました。
 また、著名なミュージシャン(ミスチル桜井和寿・小林武史・坂本龍一)を中心にできたap bankからの融資を受けて「食農教育」「環境教育」を展開し、静岡・つま恋で開催される野外フェスティバル「ap bank fes」においては、飲食ブースやワークショプを出展し、8万人の来場者にふるさとの良さを発信してきました。
 さらに「水源ボランティアホリデー制度」を導入し、高校生から高齢者が、中長期的に滞在し、前述の子ども活動や食育活動や森づくり活動を手伝いながら農山村滞在する仕組みを整え、新規就農者の受入や空き家の調査・斡旋するシステムづくりの準備を始めています。

 「農業」、「自然」、「食」、「子ども」、「ふるさと」といったキーワードを基に都市と農山村の交流を進めてきた一番の成果は、水源校区住民が主体的に運営に参加することで農林業振興を含めた地域づくりの広がりです。
 これからも時代や地域のニーズに対応して、地域資源や人的志源を活用して、柔軟な活動を展開していくことになります。私たちの活動は、応援してくださる会員や寄付が財政基盤となっています。
 賛助会員(年会費3万円)、正会員(年会費5000円)、協力会員(年会費1000円)を広く募集していますので、趣旨をご理解の上、ご協力いただける方はお願いします。
 もちろん、水源に住んでない方、卒業生でなくても大歓迎です。第2のふるさとへようこそ。