「あしたのまち・くらしづくり2008」掲載
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

「昔の子どもたち」から「未来の大人たち」へ「島の夏休み」を伝えたい
宮城県石巻市 あじ島冒険楽校
網地島について

 網地島(石巻市)は、宮城県北東部の牡鹿半島先端にあり、観光地として有名な金華山の反対側に位置しています。東北の中では気候が温暖で、常緑のタブノキや江戸時代に櫂を繋ぐ縄にするため、四国から持ち込まれたシュロが自生するなど、特異な植物相が広がっています。また、タブの葉を餌にするアオスジアゲハや今では珍しくなったオニヤンマがところ狭しと飛び交う自然の豊かな島です。世界三大漁場である三陸沖の種類豊富な魚介類に恵まれ、うに、あわび、なまこ、ひじき、ほや等がたくさん採れる島です。
 しかし、石巻市中心部から定期船で約1時間以上かかり、交通がとても不便で、天候によって定期船が欠航することも多いため、観光客として訪れる人はとても少なく、夏の一時期に、風光明媚な網地白浜がわずかな海水浴客で賑わう程度です。
 かつては、網地島の対岸にある鮎川が捕鯨の基地として全国に名を馳せて繁栄し、遠洋漁業の基地であった石巻もあって、島の経済も潤っていましたが、それも廃れてしまい、島に大きな影響を与えています。その頃の島の一般的な生活は、中学校を卒業して、捕鯨や遠洋漁業で働き、船に乗らないときは島で暮らすというものでした。それらが衰退していくと、このようにして島では生活することができず、やむをえず、本土に移住しなければならない状況に追い込まれてしまいました。また、高校への進学率が高まったことにより、子どもを本土で一人暮らしをさせる不安も、苦渋の決断をさせる一因となりました。
 島の人口は最盛期には3000人を超え、小学生だけで571人もいた時期がありましたが、わずか10年で人口が半減するような急激な人口流失により、高齢化率63.1%でわずか500人余りの島となってしまいました。年金と漁業で細々と暮らすお年寄りがほとんどです。
 小中学校は.平成12年3月に休廃校され、島では元気な子どもの声を聞くことは、ほとんどありません。コミュニティの維持も難しく、いわゆる「限界集落」となっています。数年後には、この島は無人島になるかもしれません。不安な状況が続いています。
 島には枯れた松の大木数百本が海風や海水にさらされ、白骨化して淋しく立っています。三陸特有の濃霧の中に見ると、まるで島の現状を物語っているかのようです。


あじ島冒険楽校の目的

 網地島は急激な人口流失により高齢者の島となって、将来の展望もなく、自信を失い、「すかだねぇ」(何をやっても仕方がない)という諦めの気持ちに苦しんでいました。この現状を打開するため、できるところから動こうと、始めたのが「あじ島冒険楽校」です。
 「昔の子どもたち」(島の高齢者)が講師となり、「未来の大人たち」(島外の小中学生)に対して、島の伝統技法による魚釣りや竹とんぼ・竹鉄砲づくり等を指導し、60年前に自分たちが楽しんだ「島の夏休み」を体験してもらい、網地島の現伏を多くの方々に理解してもらうことが目的でした。そして、このことが島民の生活を守る離島の航路を維持したり、島民の生命を守っている細小医院を存続させる原動力になればと考えたのです。
 しかし、実際に「あじ島冒険楽校」が始まると、島の体験活動を通じて、子どもたちの無邪気な笑顔や泣き顔に島の高齢者の頑な諦めの気持ちが氷解し、来てくれる子どもたちのために、もっと素晴らしい体験をさせてあげたいという気持ちが強くなってきました。
 子どもたちの健やかな成長を願うことも私たち冒険楽校の大きな目的となったのです。


あじ島冒険楽校の内容

 体験のメニューは、漁師歴60数年の本物の漁師が教える島伝統の魚釣り技法である「アナゴ抜き」、竹とんぼ・竹鉄砲作り、シーカヤック、流木や小石を使ったクラフト、あじ島冒険楽校のロゴを入れたTシャツ作り、植物観察、磯観察、郷土料理作り、昔の校庭を使ったノックやサッカー、肝だめし等のたくさんのメニューを用意しております。子どもたちに、好きなメニューを選んでもらって体験させています。島の高齢者の指導は少し厳しいところもありますが、子どもたちは真剣に話を聞いてくれます。

①島伝統の魚釣り「アナゴ抜き」
 島の子どもたちが熱中した魚釣りです。仕掛けは簡単で、針の付いているテグス20センチくらいを竹竿の先端に付け、餌は岩場で採れた「えらこ」を使います。本物の漁師が教える魚釣りは指導が厳しいのですが、子どもたちは自分の力で魚を釣りたいので、真剣に高齢者の話を聞いてくれます。この釣りでは、ザリガニ釣りのように次から次とたくさんの魚が釣れます。参加した子どもたちのほとんどが、魚を釣り上げることができます。
 魚は浜辺で塩焼きにして、子どもたちにごちそうします。不思議ですが、ふだん魚を食べない子どもでも、自分が釣った魚となると、骨までしゃぶるように食べてしまいます。

②竹とんぼ・竹鉄砲作り
 島にあるたくさんの竹は、おもちゃが簡単に手に入らなかった時代には、子どもたちの遊びの材料でした。昔は自分のナイフを持ち、竹とんぼや竹鉄砲を作って遊びました。
 竹とんぼはバランスが命で、机に軸の部分を置いて、羽根の部分をゆっくりと回してバランスを確認します。ゆっくりと回り続けるのが合格で、うまく回らす、どちらか片方で止まってしまうのはバランスが悪い証拠です。その場合は、さらに羽根を削り、また確認をします。これを繰り返し、よく飛ぶ竹とんぼを完成させます。この工程が楽しいのです。
 竹鉄砲は、細い竹を使って作ります。筒の部分は節を避けて作り、持ち手の部分は片方に節を残します。後は、筒の中をきつくなく、またゆるくなく、ぴったりに通る細い竹を見つけて、心棒として持ち手の部分に付けて完成です。木の実やちり紙を筒の両側に詰め、持ち手に付けた心棒で一気に押し出すと、玉が発射します。

③絹地白浜でのシーカヤック
 網地白浜は白い砂浜と透き通った海が自慢の海水浴場です。シーカヤックは海を身近に感じることができる舟で、子どもたちでもすぐにコツを覚えて簡単に操作できます。一人ひとりが船長であり、自分の判断で操作しなければならないことから、うまくできたときには自信になります。岩場に乗り上げたシーカヤックを別な子どもがオールをうまく使って助けたり、転覆した子どもを仲間で助け合うなど強い連帯感を生み出すことができます。

④流木や小石を使ったクラフト
 浜辺に打ち上げられた流木や小石は、そのままでは何の価値もないものですが、子どもたちが「目」、「鼻」、「口」、「ひれ」、「手足」「しっぽ」を付けるとあっという間に、楽しい魚や動物に大変身します。子どもたちの豊かな発想力にいつも驚かされます。

⑤網地島の植物観察
 40年前に網長中学校に勤務していた高橋和吉先生に指導していただいています。先生はいつも長靴を履いていたことから、「ながぐづ先生」と呼ばれていました。
 島にたくさんある「トクサ」を使った昔の遊び方は、節の部分で茎を折り、もう一度つないで、「どこ接いだ?」というものです。素朴な遊びですが、みんな大喜びでした。
 また、かつて網地島ではヤマユリの根を食用に栽培していました。今では栽培している人はいなくなりましたが、そのヤマユリが自生しており、夏になると、島中が甘い香りに包まれます。子どもたちに目をつむらせて、ヤマユリとスカシユリの臭いを鼻の近くで嗅がせると、ヤマユリのきつい臭いに、みんな鼻をつまんでしまいます。「素敵な香りのヤマユリなのに!!」と、みんな驚いていました。


あじ島冒険楽校の成果

 あじ島冒険楽校では、5年間に約370名の「未来の大人たち」(島外の小中学生)を受け入れてきました。もう島では見かけることが少なくなった子どもたちが元気に走り回り、大きな歓声を上げ、泣いたり笑ったりする姿が、島の高齢者たちをほころばせ、朗らかにさせていきました。初めは、「年寄りばかりの島で新たなことをやる必要はない。できない」と声を荒げていた高齢者も、今では、自ら進んで「アナゴ抜き」の先生を務め、子どもたちに「来てくれて、ありがとう」と自然に言ってくれるようになりました。そして、全く価値がないと思っていた島の文化や島の遊びが、こんなにも子どもたちを感動させるとは想像もつかなかったと思います。諦めの気持ちばかりであった高齢者たちに、子どもたちが、島の「誇」を見つけてくれたのではないかと思います。
 かつてのように多くの人が住み、経済的に恵まれた島にすることはたいへん難しいことです。しかし、「未来の大人たち」から「昔の子どもたち」は、少しずつでも島を変えていこうとする「誇」をいただいたような気がいたします。これからも「あじ島冒険楽校」を続け、島民が誇りを持ち、安心して最後まで暮らせるようにしていきたいと思います。

・過去の事業実績
第1回  平成16年7月31日(土)~8月1日(日)実施参加人数34人(うにコース)
第2回  平成16年8月6日(金)~8月8日(日)実施参加人数32人(あわびコース)
第3回  平成16年8月28日(土)~8月29日(日)実施参加人数18人(ほやコース)
第4回  平成17年7月28日(金)~7月29日(土)実施参加人数27人(うにコース)
第5回  平成17年7月29日(土)~7月30日(日)実施参加人数27人(あわびコース)
第6回  平成18年7月28日(金)~7月29日(土)実施参加人数30人(うにコース)
第7回  平成18年7月29日(土)~7月30日(日)実施参加人数29人(あわびコース)
第8回  平成18年7月30日(日)~7月31日(月)実施参加人数28人(くじらコース)
第9回  平成19年7月29日(土)~7月30日(日)実施参加人数37人(うにコース)
第10回 平成19年7月30日(日)~7月31日(月)実施参加人数36人(あわびコース)
第11回 平成20年8月2日(土)~8月3日(日)実施予定参加人数36人(うにコース)
第12回 平成20年8月3日(日)~8月4日(月)実施予定参加人数36人(あわびコース)