「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

まちづくり計画の実現による地域の活性化と自然環境の保全
静岡県掛川市 倉真地区まちづくり委員会
はじめに

 私たちの住む倉真地区は、掛川市の北東部に位置して、新東名高速道路が開通する南側で森林が多くを占める中山間地域です。地区は倉真川の源流であり、その倉真川は地区の真ん中を南下して流れ、川に沿って家々が500世帯ほど並んでいます。新幹線掛川駅に車で15分という便利な距離でありながら、自然が残された豊かな里山環境です。


活動の発端と活動内容

 掛川市の農村は元来大河がないため、水田の水利に大きな問題があり、多くのため池が作られています。それでも頼りとなるのは川の水で、水量が貧弱ながらも、一番大切な資源は倉真川の水であります。
 私たちの活動は、この大切な倉真川の改修工事が発端となって、「将来の子どもたちに残す郷土はいかにあるべきか」を深く考える時間をもち、その活動は、日本で初めての可動堰計画を白紙にし、固定堰改修へ導いた河川環境問題の克服に始まり、資金調達から取り組んだ河川公園自主建設、浄化槽設置推進の水質浄化活動、学童保育所と子育て支援所を併設した廃園幼稚園の利活用、120年ぶりの再建で材料の98%以上が地区の材木で造営された神社建設、30年間の悲願であった基幹道路の「道路整備計画住民案」作成・建設事業推進など、『環境・福祉・建設』まで幅広い課題解決へ地区挙げて取り組んでいます。
 多面的であり、オールマイティーなまちづくり活動であります。今年度は組織の法人化や新東名パーキングエリアの地区活用構想や農水省の「農地・水・環境保全向上対策事業」(農山村の維持形成のデカップリング事業)にも取り組み、地域の魅力づくりを進めていく予定です。


活動の成果

 これらの活動は、公共事業的行政サービスの及びにくい中山間地にあって、住民が自らの知恵と汗を出し、そして仲間の賛同を得て、豊かな郷土づくりを展開している志の豊かな活動です。
 9年を経て多くの地区住民が、自分たちが「変化」していることに気づき始めています。要望活動をしても何年も出来ない下水処理や道路改良など、地区で考えをまとめ、地区内の賛同を得て、行政に協働的支援を受けて取り組み、面倒な手続きを踏みながらも少しずつ前進する課題克服は地区の自立力の証しでありましょう。
 ですから、活動の成果の第1は、目に見えない地区の自立力だと思いますし、そして第2には地区の自然環境の保全はもとより、生活環境の向上や地域活性化。さらに第3には、今後の地域の魅力発信へのステージができたことなどを挙げたいと思います。


活動の総括

 私たちは地域の豊かさは、多くの方々の支援を受けて、地域の住民の自立的行動によってもたらされるものであり、生涯学び続ける中で一人ひとり何が出来るかを考え、そして「愛するもの」を地域で共有できることが、郷土を次世代へつなげるものであると思います。始まったばかりのまちづくり活動ですが、継続できる組織づくりを心がけ、多くの住民を巻き込んで支援を得て、今後も努力したいと考えています。


活動記録

1「河川環境活動」の記録(平成10年~14年)
・倉真川の改修工事で可動堰(ゴム堰)が建設される。川の水は利水に使われ、それより下流には水が流れない。水質は悪化し、生態への影響も懸念され、子どもたちは危険な川で遊べなくなってしまった。
・小学校のPTAから疑問の声があがり、改修工事の説明を受けて、地域と行政との勉強会を求心力に協働活動を展開した。(勉強会は15回、のべ750人余の参加)
・利水に有利なゴム堰を計画通り建設したいという利水組合の方々にも、ようやく納得いただいて、カスケード式の固定堰建設へ計画変更された。
・改修工事は多自然型工法が採用され、瀬や淵も各所にできて、また自然豊かな護岸となった。さらに魚道のないゴム堰付近に魚道整備がされ、生き物にも配慮された。
・事業打ち切りの不幸にあったが、公園建設は諦めず、地元で資金調達して、2か所に自主建設した。片道2.5キロの管理道路に二つの公園があり、その他の空き地にも植栽がされているところもあって、住民の散歩コースとなっている。
・近頃では自然に蛍が戻ってきているし、生き物も綺麗な川にすむ水生生物が蘇ってきている。
2「水質浄化活動」の記録と今後の展開(平成13年計画作り~17年事業化 現在3年目)
・河川の環境活動で、川づくりを考えたが、水質が良くならない限り子どもたちは川で遊べないことに気づいた。
・そこで、地区に下水施策の誘導をすべく、市と「土地条例まちづくり協定」を結ぶことになった。そのため2年をかけて「いいなあ山と川、いきいき倉真」というまちづくり計画を作成し、世帯の80%の同意を得る活動をした。(協定規則)
・まちづくり計画に同意をいただくためには地区で8会場で説明会をして意見を聞き、協力を求めたが、同意を得るには大変厳しかった。
・苦労の末、93%の同意を得た。平成16年2月に協定締結。県下で初めての浄化槽市町村設置推進事業のモデル地区に選定され、高性能の浄化槽が年間50基ずつ設置されている。(2年で100基設置済)
・倉真川の水質は飛躍的に向上している。農業用水路にタニシ、蜆、ドジョウが復活し、ドブのような臭いの発生もなくなっている。自然にも、農業にも、子どもたちにも優しい倉真川の水質になっている。
3「廃園幼稚園の利活用」の記録(平成15年~現在も)
・まさかの計画前の廃園で、地区では大変悲しんだ市立幼稚園の廃園。今再び子どもたちの歓声を取り戻そうと、活動を開始。小規模小学校区では市内のトップを切って学童保育所を地区運営で開所。さらに未就園児家庭への子育て支援として「つどいの広場事業」を開所。1年間に地区以外の親子が1万人も訪れる、市内でも子育て支援所のさきがけになった。倉真地区の魅力を保護者が市街地で語ってくれる。
4「神社再建」の事業(平成15年~17年)
・ひどく痛んだ地区を代表する神社を120年ぶりに再建した。氏子は月掛けで積み立てを8年間続ける。すべて倉真地区の山から切り出したスギやヒノキを使用して造営された。伐採作業も神社の役員らが手弁当で行ない、ことのほか安価で素晴らしい神社が再建された。
5「道路改良 住民案による整備計画」での事業(平成16年~現在も)
・30年間の悲願の基幹道路改良である。しかし、用地交渉で難航した過去があるため、行政の地区への信頼感が薄くなっており、なかなか要望に応えて頂けなかった。
・おりしも市町村合併の時期ともかさなり、なおさら、当地区は施策から外れた位置づけであったので、通常の予算事業では叶うものではなかった。
・そこで、地区の結束や考え方を試されるがごとく、「協働で進める道路整備」という事業に取り組み、住民で考える計画案を作成できるのであれば、建設へ方向付けができるのではという行政からの薦めがあり、その活動に取り組んだ。
・現状ではいつ事故が起きても不思議ではない危険な道路を、早期に建設改良するために、断腸の思いで道路幅を規格より縮小し、地区合意を得た。
・これからの公共事業はこのような、地区の全ての人に情報公開されたプロセスを踏み、地区が納得の上で建設されるというモデル的位置づけの事業へ展開した。
・用地交渉や、地区や個人地権者の合意形成に、地区のまちづくり委員会の活躍の場があり、これが事業推進に欠かせないポイントになっている。