「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

“こころに地球儀”を持つ子どもの育成を目標に掲げた母親たちの活動
北海道苫小牧市 特定非営利活動法人エクスプローラー北海道
 エクスプローラー北海道は、人との結びつきがある安全な北海道・苫小牧の地で、こころ豊かに、エコをマナーとして身に付けた地球市民を育むための探求(エクスプローラー)と活動を続ける母親たちが作ったNPO法人です。


「英語絵本読み聞かせ人」養成

 私たちは、「あること」が気になり「どうしよう」と考えていた幼稚園児の母親たちの集まりでした。その「あること」とは…。
 平成14年、文部科学省の「英語が使える日本人育成のための戦略構想」を知ったお母さんたちの会話です。
「私は英語がキライだったけど、子どもには英語を苦にして欲しくないわ。」
「英語教室なんて高いし、子どもに英語で話されても私が答えられないわ…。」
「小学校から英語が始まったら、習っている子との差が最初からあるわよね…」
 このニュースを知った苫小牧のお母さんたちは焦りました。そして国際的な仕事の経験がある一人の園児の母親に「うちの子に英語を教えてほしい」ともちかけました。しかし彼女は自分ひとりが講師になるのではなく、せっかくだからお母さんも勉強しよう!そして親子で国際人になろうよ!と提案しました。これがNPO法人エクスプローラー北海道の活動の全ての始まりでした。
 この「思いつき」に学校法人苫小牧中央幼稚園の坪田敏子理事長は「音楽のように外国語にふれ、風のように異文化を感じ、異なるものに壁を作らない。そして異文化を知ることで我が故郷を誇りに思う、そんな園児を育みたい」と、10名の母親有志に賛同し、全面協力をしてくれました。
 10名の内訳は、英語通訳の母親1名、幼稚園教諭経験者の母親2名、そして英語が苦手という母親7名です。この他に、イラストを描く母親、活動の撮影をする母親など不定期参加の協力者も多くおりました。
 皆で話し合い、英語絵本の読み聞かせや異文化体験を促すレッスン内容を考え、園児の体力や集中力に配慮したプログラムを作りました。その実行のために、全てのセリフや行動を台本にして、まず母親たちが学びます。英語の歌は家事や入浴の合間に覚え、ゲームはわが子に実践して反応を把握し、教材もオリジナルで全て手作りをする、といった具合にこの「インターナショナルタイム」と名づけたプログラムはスタートしたのです。
 1年後、このプログラムにおける最大の成果は、子どもたちの意識もさることながら、学ぶことの楽しさを覚えた母親たちの、苫小牧や日本という枠を超えた知的好奇心と意欲の高まりでした。インターナショナルタイムはその後、幼稚園が正規保育課程に組み込み、事業として正式に契約されました。これを機に、私たちのプログラムをより多くの幼稚園児と父兄へ伝えて実践してもらいたいと、国際理解教育や生涯学習の活動を主体とした法人化への準備に取り掛かります。
 私たちが小学生の親になってから分かったのは、小学校でも国際理解教育は行なっていない、ということでした。せっかく幼稚園であんなに楽しく英語や異文化にふれた子どもたち。このままそれらにふれない生活を続けてしまうのはもったいない。せめて、英語の絵本1冊でも家で読み聞かせをしてくれたら、という思いから、英語絵本読み聞かせ人(母)を養成する、サークル・ライム(Rhyme)を開催しました。子どもに読み聞かせをする会ではなく、多くの小学生たちが英語絵本の読み聞かせをしてもらえるチャンスを増やそうと考えたのです。うれしい誤算で、小学生の親のみならず、赤ちゃん連れのお母さん、将来おばあちゃんになったら孫に読み聞かせたいというご婦人など、多彩な顔ぶれの約20名が集っています。目玉はクリスマス時期に行なう英語レシピのクリスマス料理教室。毎月2回の活動で、会費は月1000円、英語の安価な絵本を海外書店から購入し、その本を子どもに読み聞かせできるように練習します。また、毎回英語のレシピも紹介します。全員母親ということもあり「同じ食材でもアメリカではこうやって食べるんだ!」と目からウロコの驚きと夕食のバリエーションを広げられるのもライムの魅力となりました。英語の絵本が家にあるだけで、話題が広がり、子どもの好奇心はそそられるものです。母親が学ぶ姿を通じ、子どもたちの学びへの欲求を実感できる瞬間はたまりません。その他にライムでは、小学校での読み聞かせ会にゲストとして赴き、地域との結びつきを深めています。さらに、年に1作品を目標にオリジナルのパネルシアターを作成し、小学校や幼稚園、ショッピングセンターの子ども広場で「出前読み聞かせ」を行ない、活動の場を広げています。
 このように、「英語」が主体の活動が発端ではありますが、お母さんたちの心と視野が大きく広がり、3年を経て“地球市民”という感覚が芽生えてきました。“わが子のために”と始めた活動が、“わが子も含めた全ての子どもたち”へと思いが深まり、さらに“これは私にできる、未来のための活動”となりました。このプログラムと一連の活動を通じて、地方都市に暮らす私たちでも、衣食住から全てにおいて世界と関わりがあることに改めて気づき、また人と人との関わりやつながりの大切さ、環境、コミュニケーションヘと意識は移っていくのです。そして平成17年8月、国際理解教育・環境問題・子どもの安全、健全育成のための様々なアプローチを探求しよう!とエクスプローラー北海道は設立に至りました。


こどもエコクラブの結成

 世界とのつながりを認識すると、自然に環境問題への意識も高まります。“国際理解教育を家庭から!”と始めたときにそうだったように、環境問題についても取り組み単位はやはり家庭。子どもたちとともに学んで行動しよう!と、わが子もわが子の友だちも誘い「こどもエコクラブ」を結成して環境省に登録し、毎月エコ活動に取り組み始めました。
 メンバー28名、サポーター12名の「ぞんぱるエコクラブ」の誕生です。“ぞんぱる”とは“太陽と友だち”という意味で、多言語をミックスした造語であり、クラブの名前のほか、広報誌等の名称にしています。現在、地元の大手スーパーのエコ活動クラブと共同開催し、活動経費や場所の提供を大手スーパーが、企画や情報発信はぞんぱるのサポーターが行ない、68名の子どもたちと、植樹や清掃、里山探検、ゴミゼロ工場の見学、循環農業体験など、様々な活動を年間15回程行なっています。さらに、子どもたちの希望でラオス学校建設資金の募金活動も行ないました。
 これらの活動報告をサポーターである母親たちがまとめ、フリーペーパーやホームページ等で外へ発信しています。子どもたちが1年の活動をまとめ作成した“エコ活動壁新聞”には、「僕たちが集めた募金で建てた学校に通うラオスの友だちといつか会いたいな」とコメントがかかれており、“こころに地球儀”を持ち始めた子どもたちを頼もしく思いました。
 全ての人がエコをマナーとして身に付けるには、大人を対象にした派手な啓発運動だけでは根付きません。子どもたちが実践し、経験と知識を家庭に持ち帰り、それを地域へ広げることが大切だと信じ、サポーターは子どもたちの気づきや発見の喜びをサポートすることに徹しています。そしてやがては大きなパワーになるようにと願い活動しています。


子どもの安全への取り組み

 最近ではどの地域においても「子どもの安全」が脅かされています。まずは安全な場所で子どもを育むことが第一条件であることから、エクスプローラー北海道では、下校時の巡回パトロールを実施しました。その時間をカバーする防犯体制が無かったからです。パトロール時に気がついたことを週報という形で校長先生へ提出し、学校・地域・保護者の連携が必須であると訴えた私たちの活動は広がりを見せ始め、2か月後に「小学校・父兄・地域連帯見守り隊」という活動へ繋がり、他のパトロール隊も始動しました。
 しかし、大人に見守られるだけの子どもでいいのか?という思いが募りました。何かあったときに対処する方法を探るばかりでなく、危険なことが起こらないまちづくり・危険なことに巻き込まれないための子どもへの安全教育が必要だと感じたのです。
 そこで次なるアプローチとして「とまこまい子どもの安全に関する意識調査」を実施しました。子どもと親との間で、安全や危険の認識に当然ながらある違いを、大人たちが理解する必要があると思ったのです。他の市などの保護者を対象にした「安全調査」の実施はあるものの、子ども自身が記入する調査は実施例が無かったようでした。
 賛同してくれた苫小牧市防犯協会の協力を得て、市内全小学校22校の約1万名の全児童を対象にした大がかりな調査となりました。アンケートの内容も全て母親たちが考え、低学年と高学年に分けて作成し、またトラウマを引き起こさないために犯罪被害体験を質問するのではなく、あくまでも子どもたちが答える過程で、親子が安全について話すきっかけになるように、また子どもの安全意識を高められるように、と何度も推敲を重ねました。
 アンケートの集計は、エクスプローラー北海道のボランティアである小学生のお母さんたち14名です。パソコンが苦手な母親も、教えあい確認しながら1枚1枚の調査票を「どの子も犯罪被害に遭いませんように」と祈るような気持ちで入力しました。この結果を1か月かけてまとめ、市内全小学校と町内会、自主防犯パトロール団体に配布しました。またこの調査結果を基に「こども安全大作戦通信」を編集・発行し、市内の全小学生と全幼稚園児に配布しました。
 不審者は急激に増えたのではなく、地域の目やつながりが希薄になっていることが犯罪増加の大きな要因であり、その対策として有効といわれる、立正大学社会学科教授小宮信夫先生の提唱する「地域安全マップづくりの推進」が次なる目標となりました。
 そこで、地域の人々とのつながりや子ども自身の危険回避能力の育成、親子での安全への意識付けを狙い“とまこまい地域安全マップコンテスト”を開催しました。参加者は15グループ約70名。全てのグループには大人が責任者として入っています。苫小牧警察署が全面的に協力してくれ、作成したマップの受付場所が「交番」になりました。交番と地域、そして子どもたちの関わりを深めることも地域安全に繋がると考えたのです。これは全国初の試みで、実際にマップを交番に持ち込んだ子どもたちにも大好評でした。
 エクスプローラー北海道でも、“マップづくり事前学習紙芝居”を母親たちが協力して作成し、出前講座を行ないました。そこには、警察や駐在所員も参加してくれ、地域の人やお巡りさんが、自分たちの安全に取り組む真剣さを、子どもたちは肌で感じてくれたようです。こうして正しい認識で工夫を凝らして作成された地域安全マップが15枚そろいました。市内の大型ショッピングセンターの協力により、最も市民が集う場所で展示会を行なうことができ、多くの方々に見て頂くことができました。表彰式に集った子どもたちの、自信に満ちた晴れ晴れとした表情は忘れることができません。
 国際問題や環境汚染、これからを生きていく子どもたちには問題や困難がいっぱいです。私たち親はずっと見守りたいと願いつつも、いつかは手を離さなければなりません。
 家庭から地域へ、地域からまちへ、苫小牧から北海道へ、北海道から日本へ、日本から世界へ。子どもたちを枠に納めることなく育みたい、という思いは親なら誰でもあるのでしょうが、日常のわずらわしさに忘れがちになる大人の視野の狭さを、子どもたちは押し付けられています。わが子を含めた全ての子どもたちが、安心安全な地域社会の中で、のびのびと多くのことに興味を持ち、“こころに地球儀”を持ったエコな国際人になってもらいたい、そしてその子どもたちが未来の豊かな北海道を担っていってもらいたいと、未来へ思いを馳せ、お母さんたちはもがきながら、しかし楽しみながら探求しています。
 子どもたちがやがて大人になったとき、この北海道が「人と人の結びつきのある、温かいふるさと」になっていることを楽しみにして、これからもできることからコツコツと、できないことは皆で力を合わせて、アンテナを広げて情報を広く収集し、目的達成のために末永く、子どもたちとともに探求していく所存です。