「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載
<子育て支援活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

絵本の読み聞かせを通して心を耕す
群馬県富岡市 甘楽富岡子どもと本の会
はじめに

 発足のきっかけ―1977年(昭和52年)全国子どもと本の文化講座に出席した数名が、絵本作家の講演を聴き、絵本の原画を見ていく中で、「子どもの本についてもっと学びたい」という思いが発足のきっかけである。
 当初は、「子どもの本の会」であったが活動していくうちに「子どもと本の会」となった。「の」と「と」の違いは、本だけでなく子どもを見つめ、子どもを丸ごと抱え込み、本好きな子ども・本好きな大人になるよう学んでいこうということであった。読み聞かせを中心として子どもたちの心を耕し育んでいこう。そして、大人も学ぶことで育っていこう。との意図である。
 人生のすべてが凝縮されたものが絵本である。本の世界で、物語の主人公に共感したり、反発したり、批判したりしながら、生き抜く力を自然に学び取っていける。前意識として、いつの日か挫けそうになった時、いざという時、土壇場になった時の応援メッセージとなってくれる。その判断力を培うことができる。人生の指針となってくれるものでもある。
 発足当初は、一億総白痴化と騒がれ、子どもたちのテレビ漬けの生活が増し、変化が現れ、親子の関係、家族間の関係が経済成長と共に薄れてくることを危機に感じ始めていた。
 会員は、主婦、教員、保育士、会社員と職種は様々で、子育て中の人、仕事で子どもと接している人、妊娠中の人、本好きな人が、子連れで、仲間と一緒に、月1回の例会に集まり、子どもと本の会で充実した時間を過ごし学んできた。


活動内容および成果

①読み聞かせ(例会の初めは親子一緒に読み聞かせを楽しむ)
 子どもにとってよい絵本とは何か、子どもの本の学習会を持ち、読み聞かせをしてきた。また、参加の年齢層に配慮し、読み聞かせをしてきた。
 乳幼児は「ことばで心を耕す」時期で、安定した心を育み、言葉の土壌作りの時期なので読み聞かせとして「いないいないばあ」(松谷みよ子)・「ちいさなくも」(エリック・カール)等を実践した。「いないいないばあ」は、4か月児(市のブックスタート事業応援)で反応を得た。
 幼児期は、自立性が発達し、物語の主人公になって、生活経験が広がる時期なので「おおきなおおきなおいも」(赤羽末吉)・「ぼくひとりでいけるよ」(リリアン・ムーア)・「だるまちゃんとてんぐちゃん」(かこさとし)等で読み聞かせ実践を入れた。
 児童期は、活動的で行動力が増す時期なので、弾む心を満たしてくれる絵本・長編ものを読み聞かせに入れた。実践例・おしいれのぼうけん(ふるたたるひ)・びゅんびゅんごまがまわったら(宮川ひろ)・よだかの星(宮澤賢治)・八郎、花さき山(斉藤隆介)など。
<例会実践例>
ア 平成4年6月の例会・参加者38名(大人11名、子ども3歳~小4年27名)
・読み聞かせ
 「むしばミュータンスのぼうけん」加古里子 作/「あいうえおうさま」寺村輝夫 作/「自転車にのるひとまねこざる」H・A・レイ 作/「いってらっしゃい いってきます」神沢利子 作/「ろくべえ まってろよ」灰谷健次郎 作
・子どもの集い 手遊び・なぞなぞ
・感想など
 歯の衛生週間にちなみ、「むしばミュータンスのぼうけん」を大型紙芝居にしたもので読み聞かせをしてくれた。描きかえると絵の味が損なわれる心配もあるがうまく描かれ、読み聞かせはようまくいった。「あいうえおうさま」は、「あ」のページは、「あ」のつくことばで綴られているので、子どもたちの名前から読み進めていき、読み聞かせに参加させたところ、大喜びだった。
イ 平成4年10月の例会・参加者42名(大人16名、子ども3歳~小5年26名)
・読み聞かせ
 「たんじょうかいのぷれぜん」宮川ひろ 作 他 宮川ひろ作品5作
・子どもの集い 手遊び・びゅんびゅんごまづくり
・感想など
 10月が宮川ひろ先生を囲んでの学習会なので、宮川作品を中心に読み、3歳児がいたので「こぐまちゃん おやすみ」「おばけの バーバパパ」を読んだ。宮川作品は少し難しいと思ったが、子どもたちは真剣に聞き入っていた。
 初めて読み聞かせに参加した子も2冊目くらいからは落ち着いて、食い入るように聴いている。前へ集まり体で表現しながら聞く子もいる。読み聞かせの楽しさを知った子は家にある本でも知っている本でも、喜んで聴いてくれる。主人公の台詞が読み終わったとたんに出てくる。

②大人の学習会(読み聞かせが終わると大人と子どもでふた手に分かれる)
 「本好きな子に育てるには?」「子どもに読ませたい本とは」「本離れする中・高学年の子にすすめる本は?」「中学生の読書はどうあるべきか」等テーマと講師を決め、提案し話し合った。また、子育て中の母親の疑問に合わせて小学校低・中・高学年別の内容で経験や実践例を交えた話し合いも行なってきた。内容を前もってお知らせに載せるため、参加者は主体的に参加できるので、話し合いは盛り上がった。全員が話し合いの中に入れるよう、司会担当は配慮してきた。充実した気持ちで満足して帰宅できた。

③遊びの集い(手遊び・歌遊び・手作りおもちゃ制作など)
 読み聞かせを終え、大人は話し合い、子どもたちは遊びの集いへ参加した。遊びの集いは、読み聞かせによる間接体験から実際に自分の手や足、脳を使っての直接体験への実践の場でもあった。絵本から得たものを実際に手先を使い表現を試み成就感を満足させてきた。会員が指導に当たる場合が多いので、「自分のお母さんが先生!」ということは、子どもたちを喜ばせ、毎回楽しい手作りで遊びが充実した。手先を使い工夫し仕上げて遊ぶことで、子どもたちには大人気であった。
・直接体験への実践例―紙ずもう・びゅんびゅんごま・紙でっぽう・かわりめん・動くおもちゃ・新聞で折る帽子・割り箸でっぽう等。

④講演会(児童文学作家・語りや読み聞かせの達人等に依頼)
 教科書に作品が載っている作家や、語りや読み聞かせの達人等の講演会を実施してきた。
 1979年(昭和54年)11月の椋鳩十先生を皮切りに、宮川ひろ・大川悦生・今西祐行・松井紀子・松谷みよ子・山口勇子・神沢利子・加古里子・安藤美紀夫・小暮正夫・森比左志・井出村由江・菊池百合・小沢清子・松井朝子・高田敏幸の各氏をお呼びして、作品に対する思い等を語っていただいた。
 直接話を聴くことで、作品を身近に感じることができ、また、教科書にも親しみが持てた。
 講演会へのお誘いは、会員から友だち、親戚、知人、職場へと伝わり、多いときには会場にいすを補充する600名を超える人に集まっていただいた。
 当日は「本の会って何?」というチラシを配布し、「読み聞かせを聞きにお出かけになりませんか?」と、読み聞かせを「生き生きと楽しく聞く子どもたちの様子」を伝えたり、「大人でも楽しい」こと、「手遊びや学習会」「おやつ」のことも付け加えたりして、会員を増やしてきた。
 講演会には、子育て中の母親が安心して講演が聴ける配慮として、必ず「子どもの集い」を立ち上げた。時に、100名を超える参加もあり、手作り遊び担当の役員は、講演も聴かず奮闘してくれた。見返りとしては、講師を囲んで食事をしながら裏話が聴けることだった。

⑤手作り絵本の作成
 手作り絵本は、1980年(昭和55年)子育ての中で「子どもの喜ぶ絵本の手作り」を実践し、絵本作家として活躍していた「松井紀子氏」に講演と実際に絵本作りを体験させていただいたのを機に、「世界にひとつの私の絵本」作りとして盛り上がってきた。手作り絵本の実践者である伏木淳子氏を招いて親子で絵本作りの体験もできた。
 出来上がった「手作り絵本」には、100万円等と値段もかかれ、親子で成就感を味わった。
 「手作り絵本」は市民文化祭の「手作り絵本コーナー」で展示し、市民の方にも見ていただいた。2年目で100冊以上の作品が展示され、年齢層も幼稚園児からおじいちゃんまでと広がった。

⑥大型はり絵絵本制作
(ア)1作目は「かさじぞう」で、会員の発案で制作が開始された。折り紙、広告紙、包み紙、新聞紙など色や質感にこだわって使い分け、子どもたちも紙をちぎっては貼り、貼ってはちぎることを楽しんでいた。
 完成後、BGMに親子で童謡数曲を歌い、市の童謡祭で発表のチャンスが持て、会員で喜び合った。また、作品を持ち、他地域の読み聞かせのグループとの交流にも役立てることができた。
(イ)2作目は、子どもたち大勢の賛同で「じごくのそうべえ」に決定した。子どもたちの入れ替わりもあったが、前作同様、読み聞かせの後の時間を利用し、出来上がるのを楽しみに制作を続けた。ヴァイオリニストのアレンスト・レスター氏の演奏での発表が決定し、より一層制作に熱が入ってきた。はり絵制作は、一人で、仲間と、親子で、『このページは!』の思いで熱中できた。
 作者の田島征三氏に連絡をとったところ、「すごいことやるね。がんばれ!」と、応援メッセージをいただき、みんな大喜びであった。
 完成発表会は、大勢の方に参加していただき、2007年(平成19年)2月に行なった。制作の場も発表の会場も、昭和11年建築の、近代和風総ひのき造りの建物「富岡市社会教育館」で行ない、アレンスト・レスター氏の演奏もあるため大勢の方に参加していただき、癒し効果抜群、成功裡に「読み聞かせコンサート」を行なうことができ、制作に関わった子どもたちと喜び合った。

⑦その他の活動
 希望者を募り、絵本美術館、作家原作の映画や組み木人形劇鑑賞、他団体主催の講演会、語りの会へと幅広く活動が展開できた。また、他団体と手作りの作品などを通じ、演じ合う交流をしてきた。


今後の課題

 今でこそ、子育て支援、読み聞かせ、学校の朝読書とその意義が叫ばれてきたが、発足当時の役員が危機と感じてきたことが、今、現実となってきている。世の中の変化とともに、子どもたちの遊びの環境も内容も大きく変わり、親の考え方も多様化してきている。
 子どもたちの成長・進級で会員の入れ替わりはあったが、継続会員5名と熱心に活動を進めてくれる数名が方向を見失うことなく実践を続けている。
 しかし、近年、親子一緒の活動を中心に大型作品を手がけることが続き、また、生活の多様化・多忙化に伴い、絵本作家をお呼びしての講演会や大人の学習などが企画出来ずにいる状態である。
 読み聞かせ中心の例会の中に、今の子どもたちに「どんな本を進めていけばよいか」「よい本の楽しさとは」を学習も入れ、会を盛り上げるとともに、夏休み等を利用して、「世界に一つのわたしの絵本」「たからものとしての絵本」の制作に取り組み、子どもたちに達成感、成就感を持たせることで自分自身に自信をつけさせ「生きる力」を培っていく活動をしていきたい。
 30年間活動してきたが、今でこそ、子育てに不安を持つ親が育ち合う中で、「絵本の読み聞かせを通して心を耕す」ことは、地域での子育ての一貫として継続していくことが必要である。また、引き継いでくれる会員を育てていきたい。