「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載
<子育て支援活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣総理大臣賞

手作りおもちゃを通しての心のふれあい
愛媛県新居浜市 新居浜市おもちゃ図書館きしゃポッポボランティアグループ
おもちゃ図書館とは

 おもちゃ図書館は発達に遅れがあったり、出身に障害をもったりするため、上手に遊べない子どもたち、また人とのかかわりがうまく出来ない子どもたちが、お母さんや優しいボランティアさん、地域の人と遊ぶことによって生き生きと楽しいときが過ごせますようにと、スウェーデンの障害児のお母さんがおもちゃを交換したことがきっかけです。1981年国際障害者年にイギリスのボランティアの手で大きく発展し、世界に広がっていきました。


様々な人短との出会い~準備から出発まで~

 新居浜市のおもちゃ図書館きしゃポッポが開館するきっかけは、平成7年7月のことでした。市が建設する総合福祉センターの中におもちゃ図書館のスペースをつくろうという呼びかけがありました。「障害児さんが安心して遊べるのならどんなに素敵なことだろう」と、この呼びかけに共鳴した障害児の親、主婦、民生委員などいろいろな人が、先進地の見学をしたり、ボランティア講座を受講したり勉強していくうちに、みんなの気持ちがひとつになって、「新居浜にもぜひ作ろう!!」と言うことになりました。
 平成7年11月1日、早速ボランティアグループを結成し、「きしゃポッポ」と名前をつけました。自然に集まった20代から70代の人たち25人が会員になり、開館を目指し、手作りおもちゃを作るところから準備をはじめ総合福祉センターが完成した平成8年4月6日に開館しました。場所は新居浜市が提供し運営はボランティアが取り組んでいます。


手作りのおもちゃたち~「お料理作ろう」「郵便ごっこ」「お菓子の家」~

 開館前に見学した丸亀のおもちゃ図書館で初めて手作りおもちゃを見ました。手にとるとあたたかく、作った人の温もりが伝わってきます。ぜひ作ろうと思いました。はじめは本を見て作りました。やがて、遊んでいる手どもの様子をみたりしながらいろいろ工夫し、創作のおもちゃを作り始めました。
 安全に遊べることに気を配っています。また目の不自由な子どものためには音が出るとか、さらさらとか、つるつるとか触って遊べるとか工夫しています。
 神戸で開かれた平成10年度「第16回幼児・障害児のための手作りおもちゃ展」では廃材を利用した冷蔵庫やレンジ台と布製の食べ物や調味料、いろいろな物をリサイクルして作った調理器具でおままごとができるようにした『お料理作ろう』が入選しました。続いて平成11年度にはオイル缶を利用した赤いポストと布製の手紙や人形が、郵便受の役目をしてくれるタペストリーにセットされた『郵便ごっこ』が優秀賞をいただきました。平成12年度にはケーキやキャンデー、クッキーがマジックテープでくっつく『お菓子の家』が入選しました。入選することが目的ではありませんが、みんなで作ったおもちゃが評価されたのはうれしいことでした。『お料理作ろう』も『郵便ごっこ』も『お菓子の家』も子どもたちに人気のおもちゃです。
 最近では、学校の先生や障害児のお母さんと相談しながらおもちゃを作っています。現場の先生や子育て中のお母さんの意見は大変ありがたく貴重です。社会とつながり交流しながら進めています。


「リサイクルマンと遊ぼう!」~手作りおもちゃで「環境」体験~

 平成12年度の活動テーマとして環境を取り上げ、障害児をふくむ子どもたちが実際に触れることができ、環境に関することを身につけていくような体験型おもちゃを製作しました。
 ゴミ分別を啓発する“お楽しみのそのあとは”という題の大型絵本で、お誕生日会のあと、ちらかした部屋を片付けるという内容です。たくさんのおもちゃゴミ、ゴミ箱を作りました。指人形を使いながら大型絵本をボランティアが読み聞かせたあと、ボランティア扮するリサイクルマンが登場し、ほうきを持って歌って踊ることで、子どもたちのゴミや地球環境問題に対する関心を高めてもらおうと考えました。総合学習のなかでゴミ、環境問題に取り組む小学校(1年生)から依頼を受け出かけました。夢中になって絵本を見てくれた元気一杯の子どもたちが、最後はおもちゃゴミをシートに広げて実際にみんなで分別体験。障害児の利用を考えて作ったおもちゃゴミは、小学校の低学年にもピッタリでした。分別がよくできたことは嬉しさと驚きでした。
 数日後、参加した子どもたち全員から「リサイクルマンありがとう」とか「お父さんにも正しいゴミのこと教えてあげます」とか紙一杯のお便りをもらい、感激しました。ゴミおもちゃを作るのに1年近くかかったこともリサイクルマンに扮して少し恥ずかしかったことも吹っ飛んでいきました。環境教育とは自己の存在を人とのつながり、社会とのつながり、自然とのつながりの中で確認することと言われます。環境のまちづくりのお役に立ててよかったです。
 障害児さんや地域の子どもが、遊びながら環境について学ぶことができるようにと取り組んだ活動は、みんなに受け入れられ、遊びながら環境を考えるきっかけにもなり、学校や幼稚園での出前講座に取り入れられました。これらの経験をいかし、初級編と上級編の「環境かるた」を作りました。環境省や新居浜市に問い合わせ、勉強し、読み札を作り、それにあわせ絵札も手作りしました。制作に2年余りかかりましたがとても好評です。これらのおもちゃを持って機会があるごとに小学校に出かけています。新居浜市では平成18年4月1日からゴミの分別が6種類分別から9種類分別になりました。9種分別にあわせおもちゃゴミの準備や、ゴミ箱も新しく作りました。これからも新居浜市が綺麗な街になるように、地球が元気になるように取り組みたいと思っています。


和太鼓の取り組み~きっと、子どもたちだけで…~

 平成13年8月から和太鼓の練習を始めました。助成金をいただけることになり、迷わず太鼓をいただくことにしました。おもちゃ図書館のクリスマス会で西条の施設「星の里」の利用者さんが叩いてくれる太鼓を聞いて「素敵だな!」と思っていました。次の年にまた来てくれて、とても上手になっていて感動しました。指導している先生の一生懸命な取り組み、その先生をじっと見つめ精一杯頑張って演奏している星の里の皆さんの姿に「真剣に取り組むことによりここまでできるようになるのだ」ということを感じ、機会があればぜひ挑戦したいと思っていたからです。新居浜は太鼓台もあり、太鼓がみんな大好きです。障害のある人も音楽に取り組むことが出来るなら、思いきり太鼓を叩けるのなら生きる元気が出てきます。お披露目をして間もなく6年になりますが、障害児親子、ボランティアが練習を続けています。恒例になったクリスマス会での発表のほか、新居浜市役所の出前講座のメニューにも取り上げられ、要望があれば学校や障害者施設、各種イベントに障害児親子、ボランティアが出かけていき、演奏したり交流しています。
 平成18年8月28日には5周年記念ミニコンサートを開き、これまでの練習の成果の発表もできました。はじめはお母さんに手を持ってもらい演奏していた子どもが1年、また1年と時間をかけて練習していくうちに自分で打てるようになり、大きな自信につながっています。今は親子、ボランティアが演奏していますが、いつか子どもたちだけで叩くことができるようになることが私たちの願いです。これからもコツコツ取り組んでいけば、その日は遠くないと信じています。


NHKテレビ出演~11回のエプロンシアター~

 平成15年NHK松山放送局から依頼をうけ、毎月1回1年間のシリーズで11枚のエプロンシアターの制作と出演をするというまたとない経験をしました。お医者さんが解説をする前に、エプロンシアターで病気の簡単な説明をする役目です。毎回病気が決まると、ディレクターさんから台本がFAXで送られてきます。会員一同協力して病気にピッタリのエプロンシアターをデザインし、大急ぎで手づくりしました。撮影は当日完成したエプロンを着けて演じます。たいてい台本が届くのはぎりぎりで徹夜で完成させました。この経験は形のないものから一つのものを作り出していくこと、そしてみんなが知恵を出し合って協力することを学ぶ良い機会になりました。また健康の大切さも再認識しました。それにもましてなによりもテレビを見た多くの人々から「テレビでエプロンシアターを見たよ」とか「元気で頑張っているのね」とか応援メッセージをいただき元気がでました。また「私も作ってみたい」とか「楽しい活動ね。私も子どもが好きだからぜひ参加したい」と興味を持ってもらったことが活動の拡大につながり、心強く思いました。子どもたちもテレビに映るエプロンシアターを楽しそうに見ていました。


「きしゃポッポ」海をこえる~手づくりおもちゃに国境なし~

 おもちゃ図書館活動では3年ごとに世界各地で国際会議が開かれます。平成11年に「第8回おもちゃの図書館国際会議」が東京で開かれ、7名が参加し28か国の人々と交流し、学び合うことが出来ました。その中でとても印象深いことがありました。廊下を歩いていると外国の女の人が指人形をくれて、遊び方を教えてくれました。後でわかったことですが、この方は手作りおもちゃの第一人者イギリスのキングストン・トイライブラリーのローマ・リアさんでした。76歳とは思えない若々しさあふれるような笑顔と気さくに声をかけてくださるそのお人柄に触れ、これからの私たちにとって大きな勇気と夢を与えてくれました。このときのローマ・リアさんと交流している写真を経済企画庁主催「ボランティア国際年フォトコンテスト」に出品したところ入選し、平成12年から平成13年にかけ全国18か所で開かれたフォーラムで展示されたことは嬉しいことでした。この国際会議に合わせて開かれた「世界手作りおもちゃコンテスト」にみんなで作ったタペストリー「シーパラダイス」も日本代表の30点のひとつに選ばれ、参加者に見ていただき、国際会議終了後は韓国のおもちゃ図書館にプレゼントされ、子どもが楽しく遊んでいるそうです。
 第9回(リスボン)、10回(プレトリア)と同会議に参加し、今では私たちの手づくりおもちゃで多くの国の子どもたちが遊んでいます。国や言葉を越え子どもたちに喜んでもらえることは私たちにとっても大きな喜びです。地道な活動を続けながら国際会議にも参加し、見聞を広め、海外の皆さんともいっしょに手作りのおもちゃの輪を世界中に広げていきたいと思います。


「きしゃポッポ」も11歳~子どもたちといっしょに~

 手作りおもちゃを作り続け、あっという間に11年6か月がすぎました。ちょうど10年が経った平成17年11月1日、総合福祉センターで定例会をしていると新居浜市立泉川小学校4年生の生徒さんが見学に来てくれました。平成7年生まれでした。きしゃポッポと同い年でした。「小さい時おもちゃ図書館で遊んだことのある人」と聞いてみると何人かの生徒さんが手を上げてくれました。10年という年月は赤ちゃんが4年生になる時間です。その時間の中で子どもたちに幸せを願う心が届いていればこんなに嬉しいことはありません。
 おもちゃ図書館で遊んだ子どもたちも大きくなりました。おもちゃ図書館が始まった頃中学生だった双子の村上兄弟は、会社に勤務しながら毎日マラソンの練習に励んでいます。兄は長野オリンピックのトーチランに参加したのをはじめ、色々な大会に参加し、記録を伸ばしています。弟も最近では東京マラソン2007で2時間56分11秒の自己最高記録で完走ました。今年秋上海で開催されるスペシャルオリンピックス世界大会の選手に選ばれて5000メートルとフルマラソンに参加する予定です。
 子どもたちもみんな一生懸命にいろいろなことに取り組みながら大きくなっています。私たち「きしゃポッポ」もそんな子どもたちといっしょに、そしてそんな子どもたちの姿に励まされながら大きくなってきました。もう少しすればおもちゃ図書館で遊んだ子どもたちが、今度はお母さんやお父さんになって遊びに来るかもしれません。もしかして、ボランティアとして関わってくれる人もいるかも知れません。そんな日を楽しみに頑張っていきたいと思っています。


そしてこれから~すべての子どもたちの幸せのために~

 おもちゃ図書館はとても不思議なところです。いつもだれかが遊んでいます。手作りのおもちゃはとても丈夫です。お部屋のおもちゃがなくなることはありません。会員さんはもちろん、障害児さんのお母さん自身が積極的に生きていくことが出来ます。小さな子どもはおもちゃで遊び、大きくなった子どもや特技をもっている障害児は、ワープロを打って会報を作ったりボランティアとして関わることが出来ます。また、世代や、地域や、性別、国や言葉を越えて人と人が交流し学び合うことが出来ます。人は一人では生きていけません。でもみんなで協力すれば何とかなります。これからも人としての心を大切に、人や物事に感謝しながら、私たちの住むまちや地球がもっと素敵になるように、みなさんの愛情をエネルギーに進んでいきたいと思います。
 いろいろなところで、いろいろな人が、いろいろな思いでふるさとづくりをしています。10数年前、仲間と一緒に「障害児さんが安心してあそべるところを…」と願って活動をはじめたその場所は、障害のある子にも、ない子にも、お母さんやボランティアにとっても楽しい場所になりました。
 私たちはこれからも自分たちにできることをこつこつやっていこうと思います。皆さんのご協力を得て広がっていった活動を、すべての子どもたちの幸せのために続けていこうと思います。