「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載
<食育推進活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

世代と地域、いのちとこころをつなぐ食育活動
愛媛県松山市 都会と田舎を結ぶ食育ネット
はじめに

 食育は地域に根ざすことが大前提である。その意味で、この活動の主体である高校生は3年前から、地域の農家や直売所と連携し、食の安心・安全を実践しトレーサビリティシステム等について研究し、農家での農業実習や直売所で販売実習を行なった。その過程で、地産地消の意義を十分に理解し地域の食のあり方を考え、郷土料理を広める活動もしてきた。しかし、地産地消ブームは直売所の乱立を生み出し、人口の少ない地域(県)においては少ないパイを奪い合い、かえって売れ残りを多くし廃棄するということが起きている。彼らは、そういったことを実体験を通して知り、苦々しく思っていた。
 一方で、以前から交流のあった都会の小学生たちは、食卓の皿にある食べ物は知っていても、単なるモノとしての存在にしか捉えておらず、いのちあるものとの認識はない。好き嫌い、食べ残しで残飯としてどんどん捨てられ、処分される。さらに、その保護者世代、団塊二世は飢えた経験がなく、ふるさとも持たない。インスタントや冷凍食品、スナック菓子、ファーストフードに慣らされた舌は、本物のいのちの味を忘れかけている。
 地方で飽和状態にある地産地消、都会でいのちの尊さと本物の味を知らない家庭があることを知った高校生たちは、地域と連携しなんとかしようと立ち上がった。
 (愛媛県内子町の農家、直売所、NPO法人サンラブと愛媛大学農学部附属農業高等学校2・3年生有志、横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉小学校5年生(現6年生)で組織し実践した記録である)


第1段階 都会の小学生の「農業への疑問・質問にお答えします」

・メールにて、都会の小学生から、田舎の農業高校生への疑問・質問(平成18年6月)
 農業をほとんど知らない小学生に、どんなものでもいいからと伝え、農業への疑問・質問を送ってもらった。そのうち、ごく初歩的なものについては、メールで返答した。
・疑問・質問についての回答作成と取材(農家・直売所)(平成18年7月2日)
 農家の人の生の声を伝えたらいいと思われるものについては、取材をした。あわせて、直売所でイキイキと活躍している農家のおばちゃんにも、自らの疑問を質問し、都会の子どもたちへのメッセージもいただいた。
・小学生に向けてのプレゼンテーション作成(平成18年7月4日〜8日)
 取材した結果と彼らのメッセージを伝えるためにプレゼンテーションを作成した。小学生に対してどう伝えるか苦労した。
・インターネット子ども教室「食の安全教室」及びCDにて視聴できるように(平成18年7月10日)
 取材結果を伝えるには、画像だけでは物足りなさを感じ、インターネット子ども教室「食の安全教室・食の安全に関する講義」を収録する機会があったことから、この取材記録を高校生が説明するeラーニング形式で番組を作成、インターネットで流すとともに、CDに収録し小学校に送付した。(小学生の視聴は夏休み明けとなった)http://kodomo-mf.jp/SYOKU/ ID:kmf PW:syoku_2006


第2段階 「なぜ?なに?」交流(メール)(平成18年9月〜10月)

・農業高校生のプレゼンテーションを見て、小学生からの更なる疑問・質問
・小学生の疑問・質問に対する回答(メール利用)
 小学生は、高校生のお兄さんお姉さんが自分たちのために活動してくれたということで、それをうれしく思い、遠く離れた高校生を身近に感じ、どんどんと疑問・質問をぶつけてきた。高校生もかわいい弟妹と思い、それに答えた。顔は見えないが、メールで距離も、世代も縮まった。


第3段階 「は〜い。こちら愛媛です。」テレビ電話で生中継(平成18年11月1日)

・農業高校のハウスから、携帯電話のテレビ電話機能を使って生中継
 距離も世代も縮まると、次は顔を会わせたいというニーズが高まる。農業高校は「野菜」の実習中、小学校では「総合」の学習中。事前に届けられていた農業高校で生産されたキュウリ、それを見て、「これはどんなふうに作られているの?」と小学生から高校生の携帯電話に電話がかかってくる。テレビ電話機能を使って、生中継。愛媛と鎌倉、ハウスと教室が一体化する。
・農業高校生と小学生の生の交流(小学校ではスクリーンに拡大映写)
・ハウスに植わっている野菜の実物を見せての質問、小学生からの質問等のやりとり
 高校生はレポーター・教師役と、いろいろと工夫し、小学生に自分たちが作っているものを説明。野菜の一部を写し質問を出す。キュウリの雌花と雄花の違いを説明したりと楽しく学び合いをした。
・農業高校のキュウリ、高校生と小学生が丸かじりし一体感
 この生中継の最後には、キュウリの丸かじりを高校生が演出。キュウリのハウスの中で高校生全員が一斉に、「カリッ!」と丸かじり、それに少し遅れて、小学校の教室でも「カリッ!」という音が響き、楽しい時間を共有した。余った農産物は小学生が家に持ち帰り家庭で調理、家でこんなふうに食べたよとのレポートが後日届いた。


第4段階 「おもぶりごはん」をつくりましょう(平成19年1月27日)

・簡易なインターネットテレビ会議システムを使って、遠隔共同調理
・愛媛の郷土料理「おもぶりごはん」を作って、文化を理解。食材は全て愛媛産及び農業高校産。
 交流のニーズは両者ともに高まり、次は何を?と期待。次は、愛媛の食材で愛媛の郷土料理を作ることになる。高校が連携している農家・直宛所と農業高校から農産物を鎌倉小学校へ送り、小学校の家庭科室には愛媛の新鮮な野菜・果物が山のように並ぶ。愛媛を知ってもらうには、地理の勉強も必要だが、料理を通して文化の交流ができると郷土料理「おもぶりごはん」をつくることに。
・高校生が教師役で進行、小学生の保護者も参加(児童・保護者21組、高校生14名参加)
 高校生のお兄さんお姉さんが教師役・進行役、最初は硬かった表情も小学生からの質問で和らぎ、高校側での調理の様子を示しながら説明し、同時進行。この日は土曜日ということもあり保護者も参加。子どもと一緒に活動し、一つのものを作り上げることはなかなかない。また、素朴な郷土料理であったので、保護者自身もどこか懐かしさを感じるものであったようである。子ども主体のものであったが、思わず手を出してしまう保護者もいた。
・同時に調理、小学生の「いただきます」の挨拶で一緒に。普段食べられないものも食べられた。
 600キロの距離を感じさせず、ほぼ同時に調理終了。小学生の代表の「いただきます」の号令が、小学校と高校の家庭科室に響きわたる。シイタケなど、普段食べられないものも食べられたとの声もあり、新鮮で本物の味は違うとの保護者からの声もあった。
※ここまでの取り組みは第7回インターネット活用教育実践コンクールの紹介HPにて視聴可能 http://www.netcon.gr.jp/old/7th_result.htm1


第5段階 「田舎へ行きたい!」「田舎へおいでよ!」(平成19年2月〜6月)

・小学生の「愛媛へ行きたい。農業体験したい」とのニーズ
 楽しそうな農業高校生の活動(携帯やHPで見られるようにしている)、お兄さんお姉さんに会いたいとの素朴なニーズが日に日に高まる。愛媛へ行って農業の体験をしたいとの欲求が高まり、大人を動かした。
・高校生の「愛媛へおいでよ。私たちがサポート役」とのレスポンス
 小学生の「行きたい。会いたい。」とのニーズ応えて、高校生も「私たちと一緒にやろう!」とのレスポンス。メールで、愛媛の情報を知らせたり、宿泊先や農業体験の情報、ゲームなどの打ち合わせなど田舎暮らし体験に向けての打ち合わせ中。


第6段階 田舎暮らし体験!(平成19年8月3日〜5日)

・8月3〜5日「そうだ!田舎へ行こう」プラン
 小学生32名、保護者等7名、小学校教師1名、小学校関係等2名
 高校生8名(児童4名に1名)、高校教師2名、高校関係者5名
 農家民泊協力8軒、農業体験農場2、農産物直売所1 等
・農業体験、川遊び・山遊び、うどん打ち体験、町並み散策、クイズ・ゲーム交流等、農家や高校主による体験活動


第7段階 「これからもよろしくね!愛媛はみんなのふるさと。」(平成19年9月〜平成20年2月)…予定

・小学生による体験学習のまとめ、高校生のアドバイス(インターネットや携帯電話)(平成19年9月)
・小学生による体験学習のプレゼンテーション、高校生や地域の人等による評価(平成19年9月)(平成19年10月)
・体験学習の時のイネ、収穫したコメを持って高校生が小学生のもとへ(平成20年2月)
・高校生の作ったおにぎりを食べて収穫祭(平成20年2月)
・「愛媛はみんなのふるさとだよ」宣言(平成20年2月)


現在までの成果

 現在の多くの食育は極めて限定的である。食育と名をつけ、子どもたちに押しつける。さらに、地産地消ということで、地域限定的である。子どもの時から望ましい食生活を身に付けさせ、新鮮で環境にも優しいという取り組みは、まさに教科書通りである。しかし、それでいいのか? 過疎と過密が存在する日本、地産地消で全て解決するわけがない。過疎地では食材が余り、過密地では食材が大量に不足する。学校では食育の授業を受けても、普段の食事は、外食・中食・飽食・崩食…が実態である。
 今こそ、地方からの発信が必要である。それも、子どもたちに向けて。さらに保護者に向けて。大人がサポート役ではなくて、農業高校生が地域と連携し、団塊第二・第三世代に向けて、彼らの心の拠り所となる「ふるさと」に位置づけられるよう発信し続けることが必要である。子ども時代に身に付けた食に関する意識は一生、活かされる。「ふるさと」と意識した風景はいつまでも心に刻まれる。離れていても、その地域の応援団、農業の応援団となるのである。
 現在、この取り組みは進行中であるが、小学生1クラス40名の内、遠隔共同調理に21組の児童・保護者が参加したこと、今年の夏の田舎暮らし体験に32名の児童・7名の保護者等が参加することがこの取り組みの成果を物語っている。大人ではなく高校生が前面に立ち、小学生や保護者と関わっていく、その言葉に嘘がないことが伝わっている。その高校生の熱意に動かされ、地域の農家や直売所も全面的に協力している。
 この取り組みは、極めて小さな点としか存在していない。しかし、これからの食育のあり方の一つとして検討されるべきものであると考える。できれば、食育のモデルケースとして発信していきたい。
 この取り組みに参加した子どもたち(小学生・高校生)の笑顔も、この食育の成果を物語っている。来年2月には、笑顔で高らかにふるさと宣言ができればと思っている。