「あしたのまち・くらしづくり2006」掲載 |
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣総理大臣賞 |
右手にスコップ・左手に缶ビール!―みんなで協力、身近な環境改善― |
静岡県三島市 特定非営利活動法人グラウンドワーク三島 |
「水の都・三島」の環境再生に挑戦 活動の舞台である静岡県三島市は、かつて「水の都」と呼ばれ、美しく豊かな水辺自然環境を誇っていた。しかし、1960年以降、上流地域での産業活動の活発化により、地下水が汲み上げられ、市内各所にある自然河川や湧水池から地下水が減少し、ゴミの放棄や雑排水の混入も相まって、地域の環境悪化が進行した。 そこで、このふるさとの環境悪化に、危機意識を持った多くの三島市民は、「水の都・三島」の原風景・原体験の再生と復活を合言葉に、市民が中心となり、そこに行政や企業を巻き込んだ、新たなる市民活動のスタイルと手法を、英国で成功した市民・NPO・企業・行政のパートナーシップによる環境改善活動であるグラウンドワーク活動に見出だし、この運動を日本で最初に導入した。1992年9月、それまでにバラバラに活動してきた市内八つの市民団体と、三島市や地域企業などが一つになって、「グラウンドワーク三島実行委員会(現在NPO法人グラウンドワーク三島)が結成された。 最も象徴的な活動は、市内を流れる源兵衛川の環境再生活動である。昭和30年代初頭、都市化・工業化の進展や生活環境の変化に伴い、富士山からの湧水であふれる「水の都・三島」の水辺環境は悪化し、特に源兵衛川はゴミが捨てられ生活雑排水が流れ、汚れた川の代名詞となってしまった。そこで、ふるさとの原風景・原体験を取り戻そうと多くの三島市民が立ち上がり、グラウンドワーク三島によってコーディネートされたパートナーシップによる環境改善活動を通して、今では多くの市民が憩う親水空間が整備された。事業終了後も、地域住民の手によって生態系を守り育てる地道な活動が続けられ、ホタルやカワセミが舞う豊かな水辺自然環境に変貌しつつある。 実践的で多彩な環境改善活動を展開 グラウンドワーク三島では、この源兵衛川の再生をはじめ、これまでに、湧水の減少と水質悪化により市内の川から姿を消した水中花・三島梅花藻の復元・育成池「三島梅花藻の里」の整備、ホタルの育成地「宮さんの川・ほたるの里」づくり、住民参加による遊水池「境川・清住緑地」の整備、「雷井戸」・「腰切不動尊」等の歴史的な井戸・水神さん・湧水池の再生・お祭りの復活など、水辺にまつわる環境文化の再生活動を実施してきている。また、活動の初期段階より、荒地の再生を図るため、「鎧坂公園」や「みどり野ふれあいの園」等、市民手作りによる公園整備を数地区で実施しており、身近な環境改善をスローガンとするグラウンドワーク活動の典型的な事業となっている。これら実践地は、整備後、市民による定期的な清掃作業によって美化が保たれている。 さらに、環境教育活動の一環として、市内に50か所以上ある鎮守の森や湧水池をフィールドに、「鎮守の森探検隊」等、親子を対象とした様々な自然観察会や水辺の勉強会を開催しているほか、函南さくら保育園・長伏小学校・中郷小学校・三島南高校での学校ビオトープの整備を推進し、多くの児童・生徒・PTA・教師・企業の参加を得て活発な活動が行なわれている。整備にあたっては、“生きた”学習教材となるように、在来の植物やめだかの保護育成地となるよう配慮している。 学校ビオトープや自然観察会は、今まで自然を遠くから眺め、鑑賞するだけだった子どもたちに、植物や昆虫、魚類など、地域の身近な自然に直接触れ、体験する機会を提供しており、環境教育の具体的実践の場として活用されている。子どもたちが地元の自然への理解と愛着を深め、人格形成で重要な時期の幼年期に、豊かで実りある原体験を得る貴重な場となっている。 事業の推進にあたっては、地域学習会やワークショップの開催等を通じて関係者の合意形成に多くの時間をかけて、地域住民が主体的に身近な環境を守り・育てる体制となるよう促している。これらの活動は、「右手にスコップ、左手に缶ビール」という明快なスローガンのもと、地域の多くの人々の実践的な参加により進められている。身近な生活環境の中で発生した地域課題に対して傍観者ではなく、積極的、具体的な形で取り組み、小さな成果を残すことで市民に自信を取り戻し、街への愛着の気持ちを醸成する「自立と自発への心の変革運動」といえ、「議論よりもアクション」「走りながら考える」が行動指針・規範である。 グラウンドワークの有効性を実証 活動成果は、まず、行政が対応に苦慮していた地域の環境悪化が、グラウンドワーク三島がコーディネートするパートナーシップによるマネジメント力により劇的に改善され、源兵衛川をはじめ街中に清流がよみがえった。三島市との協働による「街中がせせらぎ事業」により、市内の水辺環境の改善が進み、現在、多くの人々が三島を訪れるようになった。三島市観光案内所の年間来訪件数が2000年・1万8000件から2005年・8万3000件に、案内図みしまっぷの発行部数が1999年・3万部から2005年・12万部に増加している。 また、地域住民等がまちづくりのプロセスに主体的に関わることによって、地域住民等の街に対する問題意識と愛着心が向上し、行政費の節約や地域企業の具体的な社会参加も実現した。発足当初は8参加団体だった当団体は、現在、20の市民団体(構成約5000人)、100名以上の個人会員からなり、企業100社、三島市、地域ボランティア(延べ2万人)等が参画し、これまでに三島市内及びその周辺地域において35地区以上で具体的な実践活動を実施し、それぞれのネットワークを活かした創造的な活動を多方面で展開するまでになった。 このように、市民・NPO・企業・行政がパートナーシップを組んで自立的にまちづくりに関わる、身近でわかりやすい実証的なモデルケースを提示することができ、地域社会に変革をもたらす新しい社会システムが、グラウンドワーク活動を通じて根付き始めている。 これらの活動は各方面から大きな関心を呼び、現在までに、国内および韓国・中国・エジプト・ヨルダン等の海外から、市民団体、行政、大学、JICA海外研修生・静岡大学等のインターンシップ等、年間約3000人・約130団体が視察研修に訪れ、日本におけるパートナーシップ型の環境・まちづくり活動の成功現場の情報発信地としての役割を果たしているほか、街づくりなどの人材養成の場ともなっている。 環境コミュニティ・ビジネスへの取り組み こうして、水辺環境の再生から始まった活動は、「潤いのあるまちづくりからうるおいのある街づくりへ」と地域の振興に拡大している。近年では、地域の人的資源(シニアや離職者)や環境資源(荒れ放題の里山や竹林など)を活用した環境コミュニティ・ビジネスへの取り組みや、エコ・スタディ・ツアーの実施など、新たな市民事業を展開し、パートナーシップのさらなる有益性を実証している。 現在は、これまで実施したプロジェクト地区での持続的な活動を推進するとともに、挑戦的で創造的な新規事業の連続的な仕掛けを行なう計画である。現在進行する主な計画は次のとおりである。 ①環境コミュニティ・ビジネスの実施 「せせらぎシニア元気工房」では、「悠遊工房ひろかわ」を活動拠点に、間伐材や放置竹林材を材料としたもろ箱、一輪挿し、日用品等の木・竹製品の製作や、箱根西麓地域でそば・小麦作りを行ない、援農による遊休農地の利活用に取り組んでいる。また、間伐材や廃リヤカー等のリサイクル材で屋台を製作し、中心商店街の空きスペースで「三島うみゃあもん屋台」を出店し、地域の人的・環境資源を活用した環境コミュニティ・ビジネスの事業モデルの開発を目指している。自らの経験を生かす場を求めているシニアや女性層に生きがいや自己実現の場を提供し、地元の荒れた里山や放置竹林の改善に寄与しているほか、中心商店街のにぎわい再生にもつながっている。 ②街づくり事業の推進 三島市では、平成17年度、内閣府より地域再生計画「三島せせらぎ・にぎわい再生の街づくり・人づくり」が認定され、またそれを推進するためのモデル事業の支援をグラウンドワーク三島が受けた。 これまでの三島市内のグラウンドワーク三島の活動成果をベースに、地域の資源を活用した環境・まちづくり体験研修モニターツアーの実施と、その案内人となるインストラクターの養成を行ない、市内を中心に、多数の人材の発掘と人的ネットワークを確立した。現在、大手旅行社と連携し、三島の人的・地域資源を活用したエコ・スタディ・ツアーを推進中である。 ③全国研修センターと全国的ネットワークの形成 日本におけるグラウンドワークの人材育成拠点・組織交流拠点・情報発信拠点として「グラウンドワーク全国研修センター」を設立した。研修会には、英国グラウンドワークより講師を招き、NPO相互の実践的なノウハウの共有と国際交流を進めている。NPOの研修機関は全国でも数多く存在するが、実際の活動を身近に体験でき、かつ現場の生の声を聞くことのできる研修センターは全国で唯一である。三島を日本におけるグラウンドワークの拠点として改めて位置づけ、「グラウンドワーク全国研修センター」を三島市や日本グラウンドワーク協会と英国グラウンドワークと連携して運営し、日本におけるグラウンドワークの全国ネットワークの強化・拡大を図っている。 ④グローバルな活動展開 アジア地域へのグラウンドワーク手法の導入を図る拠点形成を目指し、バイカモ保全を通した韓国ナショナルトラストとの交流活動、JICAと連携した人材育成・技術移転事業、環境バイオトイレのアジア輸出による国際的生活環境改善活動への取組みなど、アジア地域とのネットワーク形成を進めている。今年度は、「バイカモ国際交流サミット」等、具体的な交流事業を実施する。 また、既にパートナーシップ合意を締結している英国グラウンドワークとの提携関係をベースに、グラウンドワーク運動が展開するアメリカやEU諸国との世界的グラウンドワーク・ネットワークの形成を進めている。 |