「あしたのまち・くらしづくり2006」掲載
<食育推進活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣総理大臣賞

霧島で「食を大切にする」文化を育てたい
鹿児島県霧島市 特定非営利活動法人霧島食育研究会
活動を開始した具体的な動機

 霧島町(平成17年11月市町村合併により、現在霧島市霧島地区)は人口5800人、高齢化率30%と少子高齢化の進む山間地にある。
 町保健福祉課が行なった「健康きりしま21」の策定における調査において、@適正体重を維持する人が少ない(20代〜60代男性肥満者26.1%、40代〜60代までの女性肥満者19.6%)A朝食を欠食する人が多い(20代男性60.0%)などの結果が出た。
 また、小学生以下の子どもを持つ全ての世帯を対象に行なった霧島町次世代育成支援に関するニーズ調査では、@料理をつくるのは面倒だと感じている保護者が85%いるA子どもが体調が発熱などの際70%の保護者は水分補給の目的でスポーツ飲料を与えている。という結果の一方で60%の保護者は栄養や健康についての学習会へ参加したいと希望していた。
 こういう現状をふまえ早急に食に携わる関係者が、霧島の食の現状を把握し、栄養学や関連する学問の成果、実践を活用し、「霧島の食育」を推進する必要があると考え、平成16年1月、現代表千葉しのぶ(管理栄養士)が呼びかけて町民の自主グループ「霧島食育研究会」を発足させ、霧島の生活スタイルに適応した食育活動を行なうこととした。
 メンバーは町内に居住または勤務する管理栄養士・栄養士・食生活改善推進員・教員・社会福祉士・読み聞かせグループ代表・公務員・農業家・公社職員・看護士などで現在15名。平成17年9月鹿児島県よりNPO法人の認証を受ける。


目的


(1)霧島の郷土食・家庭の味の継承
(2)作る喜び・食べる喜びを味わい、感謝の気持ちの育成
(3)個人や地域での健康づくり・食の自立
(4)霧島の環境にやさしい生活スタイルの提唱


内容

(1)「子どもと大人のための霧島食育プログラム」
 bPからbP1まで11の霧島の現状に合わせた食育活動のプログラムを提案し、地区内各小中学校・PTA・スポーツ少年団・地域子供会・女性団体・高齢者団体などの依頼を受け実施している。
 現在まで、のべ38団体1531人の受講者がいる。これは、地区人口(5779人/平成17年10月1日現在)の26.5%にあたり、特に小学生では270人が参加しており、地区全体(294人/平成17年4月2日現在)の92%にあたる。

(2)「霧島・食の文化祭」

・実施日 第1回 平成16年11月13日(土) 第2回 平成17年12月18日(日)
・主催 霧島食育研究会、霧島町食生活改善推進員連絡協議会、霧島町地域女性団体連絡協議会
・内容 霧島の家庭料理大集合(270皿の家庭料理)
 霧島に残る行事食「霧島講」など、人生の中の節目の食等の展示 昭和初期のいろり・ちゃぶ台のある霧島の食卓再現、などのべ1200人参加。実施後報告CD及びレシピ集を作製。

(3)「霧島たべもの伝承塾」
 第1回「霧島食の文化祭」を開催し「あくまき」「フクレ菓子」といった昔から霧島の家庭の中で普通に作られ食べられてきた食べ物が、急速に作られなくなってきたという現状を知り、講師は町内のお料理上手なベテラン主婦の方々に依頼し、あえてレシピは用意せず、講師の手元・手順で各自メモを取る形式で実施している。参加者は10代〜60代までと幅広い。

(4)「霧島スローライフ農場体験」(大豆の植え付けから収穫・加工・販売の実施)(7月〜11月)
 町内の畑を借用し「霧島スローライフ農場」と命名し、大豆の植え付けから収穫・加工(味噌・豆腐)し、第2回「霧島・食の文化祭」での「みそ汁」の販売まで、さまざまな年齢層の参加者が協力・交流して実施・実施予定している。
・参加人数 30人(うち幼児・小・中学生15名)

(5)広報活動
 霧島町広報「風土・ふーど」「霧島の食・我が家の味」の掲載・「風土・ふーど」平成16年5月より町広報誌に掲載「郷土の食文化の豊かさ」を広く広報できた。以後毎月掲載、平成19年10月まで18回掲載(合併により町広報誌廃刊)。現在南日本新聞、「かごしま食育レシピ」掲載中


特に工夫したことやねらい

「霧島の食の現状を正確に把握する」
 会員のそれぞれの立場(医療・学校・福祉施設・家庭・育児サークル・読み聞かせサークル)で乳児から高齢者までの各年代の問題点と対策を話し合った。その際町保健師・保健福祉課職員にも現状の説明を依頼し参考にした。

「知識ではなく知恵を学ぶ」
 活動内容は高度な栄養知識や料理技術ではなく、はしの持ち方やふるさと霧島で昔から作られ食べられてきた郷土料理や菓子の作り方といった、生活の中の知恵である。

「いっしょにやってみる」
 全ての活動は、外部講師を含めスタッフと参加者が共に体験する事を基本としている。作る姿・手元で食の知恵を・技を教える。「大豆の栽培」では2歳から50歳代までの参加者がともに大豆を植え、草取りし、収穫することなどで協力することの大切さや共同作業の楽しさを実感させる。

「気づく・感動する」
 活動のねらいは「教える」ことではなく、参加者のひとりひとりが自分の食・家庭の食について「気づく」ことである。「霧島たべもの伝承塾」の参加者が自分で「あくまき」を作ったことに感動し、「こんにゃく芋」から「芋こんにゃく」ができることに驚き、昔から培われてきた食の知恵に感激し、また小学生がきちんとはしを持つことで魚を上手に食べられるということに気づく、といったことの積み重ねが大切だと考える。

「家庭や地域に活かす」
 これまでの活動で、だしのとり方を学んだ参加者が、家庭での食事の味が格段によくなり、子どもが喜んで煮物を食べるようになった、朝食はほとんど菓子パンを与えていた保護者がごはんと味噌汁中心の朝食を準備するようになった、「霧島・食の文化祭」で展示されていた「地域の中の講の食事」を見た来場者が、「絶対に絶やしてはならない」と思った、「霧島たべもの伝承塾」で習った「盆料理」を近所の人にも教えた、という声がある。このように、活動が家庭や地域につながることをねらいとしている。

「つながる」
 地域に根ざした食育活動のためには、会員のみの活動ではなく、他団体や行政、個人との協力体制が不可欠と考え、現在、食生活改善推進員連絡協議会、地域女性団体連絡協議会、町社会教育課、各小中学校、PTA、生活研究グループ、有機農業グループ、高校生ボランティアグループ、読み聞かせグループ、子育てサークル、農業生産者、個人(陶芸家・染色家)また町外食育活動サークルと連携して活動している。


今後の課題

(1)新市における活動範囲の拡大
 合併後5800人の人口が13万人へと拡大し、活動は新市全体を活動範囲として行なわれる。広報のあり方や活動内容を検討する必要がある。
(2)運営資金
 行政に頼らない運営を目指す。
(3)会員の資質の向上
 活動が多くなるにつれ、会員が準備や世話係りとなり、各活動をじっくり学習する機会が少なくなっている。会員自身がしっかり研修できる活動を検討する必要がある。


最後に

 食育基本法制定の中で「食育」がいろいろな場で流行語のように使われている。私たちは子どもの料理教室や栄養教室だけでなく、まずは、その地域のできるだけ多くの人たちが自分の足元の食について考えてみること、そして家庭や地域に伝わってきた食べ物や生活の知恵をもう一度見直し実感し食べ物が口に入るまでいろいろな人の手が関わってきたことに気づくこと、子どもが「おなかがすいた!今日のごはんは何?」と家に駆け込んでくること、独り立ちした子どもが「うちのあの料理が食べたい」と思うこと、そういう環境を作ることこそが「究極の食育」ではないかと考える。そのために霧島食育研究会では、常に地域の協力を得ながら「人を作りふるさとを育てる霧島の食育」を推進していきたい。