「あした通信」213号掲載
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自ら防災マニュアルを作成し、住民の生命を守る町内会
宮城県仙台市宮城野区 福住町町内会
素早く対応できた!

 「今回は素早く行動できた」とは、仙台市宮城野区福住町町内会会長・菅原康雄さんが、平成17年8月16日に宮城県を襲ったマグニチュード7.2、震度5の地震に対して町内会への対応についての発言。この時、動物病院の院長でもある菅原さんは、たまたま猫の不妊手術中だった。手術を終えるとすぐに集会所に駆けつけた。すでに10人ほどの役員が集まっていた。役員たちは道すがら要支援者のお宅を訪ね、安否確認をしていた。再度、手分けをして情報収集に努め、1時間半後には調査を終了することができた。幸い今回の地震では、町内にそれほどの被害がなかったが、その結果を区役所に報告した。
 素早く行動できた背景として、要支援者の名簿が整備されていたこと、役員たちがお年寄りと顔なじみになっていたこと、さらに度重なる訓練の成果だと言う。そして、何よりも一人ひとりに「自分たちの町は自ら守る」という考え、行動がみんなに定着したことが大きいと続ける。


宮城県北部連続地震をきっかけに

 福住町は、昭和40年代前半に宅地化された町で、現在の世帯数は500。高齢化率は約25%、一人暮らしのお年寄りも77人を数える。福住町町内会が、防災活動に本格的に取り組み始めたのが平成15年。直接のきっかけは、宮城県北部連続地震だった。
 防災活動を始める上で同町内会が基本としたのが、「行政に頼るのではなく、住民が自主的に動き出すことが大切であり、町内を知り尽くした自分たちだからこそ具体的な行動ができる」という考え。
 最初に、基礎情報となる町内会会員の名簿作成から取り掛かった。家族の氏名、生年月日、緊急時連絡先などの住民調査票を全世帯に配り、その記入を依頼した。そして要支援者、高齢者夫婦世帯、小学生、中学生などの名簿を作成し、さらに情報を地図にプロットしていった。この作業はわずか2か月で完了したという。
 このように短期間で終えることができた背景として、もちろん防災に対する関心が高まっていた時期ということもある。それに加え、祭りなどをはじめとするイベント、防犯等の日常の町内会活動が会員に認められていたことや、10人を超える副会長を含めて30人ほどの役員体制をひいていることが物語るように多くの人が役割をもって活動に参加できる体制づくりをしていたことが見逃せないと菅原さんは分析する。
 次に、取り掛かったのが、『自分たちの町は自分たちで守る』というサブタイトルのついた「防災わがまち 福住町自主管理マニュアル」の作成。ここでは災害時の組織体制が述べられている。町内会長をトップとした災害対策本部を設置し、情報収集、救援物資、消防協力、救急救護、給食・給水の五つの役割別の班と町内を七つの区域に分けたブロック班を設け、高齢者の安否確認、家屋の被害状況の把握、初期消火、負傷者の応急処置、簡易トイレの設置、食材、飲料水の確保などを行なうもの。総勢100人を超える人たちが役割をもって参加することになる。
 このほか、マニュアルでは、倒壊の危険性があるブロック塀や自動販売機、公衆電話の設置場所などを記したマップ。各家庭が緊急時に持ち出すべき品物や書類のチェックリスト表、個人の緊急時における対処法、各自が持つようにと氏名、生年月日、血液型などを記した緊急避難カード。さらには、「ちょこっとの修理・修繕承ります」と題した家具転倒防止、棚などの補修、補強、さらに電球や蛇口の交換などの作業を町内会の有志が低価格(実費程度)で請け負いますといった記事なども盛り込まれている。このマニュアルはすべての家庭に配布され、災害時の便利帳として使って欲しいとしている。


生命を守る、そして生き延びるための防災訓練

 このマニュアルに基づき、平成15年から毎年実施しているのが防火防災訓練。企画、運営はすべて住民自身の手づくりで進められている。前述したように高齢者の安否確認、家屋の被害調査のほかにも、炊き出し、仮設トイレの設置、救護活動など、災害発生時とその後3日間を生き延びるための実践的な訓練を繰り返し行なっている。例えば救護活動。けが人の搬送の仕方、応急処置としての止血方法、近年、一般市民にもその使用が認められるようになったAEDの体験、さらにはトリアージをも導入した訓練を、町内で開業する医師や日本赤十字の参加を得て行なっている。また周辺地区の医療機関に対し、緊急時における受入態勢の状況についての情報公開を求めてもいる。
 同町内会が平成16年10月の新潟県中越地震で被害を受けた小千谷市池が原地区に地震発生の10日後に救援物資を持って訪れたのを皮切りに、何度かの訪問の中で得られた「災害が起きてから3日間は、自分の命は自分で守る」「余震が続くなか、暗闇では灯かりと火が欲しい」と言った被災者の生の声も訓練には生かされている。


災害時に協力する姉妹町内会を提唱

 福住町内会では、町内会の防災能力を高めると同時に、他の町内会とのネットワークづくりにも力を入れている。今、同町内会が提唱しているのが、「災害時相互協定の支援提携」の呼びかけ。自治会町内会同士で、いざというときには互いに助け合おうというもの。そして災害時に備えて普段から訪問、交流を重ねるなかで、親睦を深めていこうというもの。現在、同じ仙台市の青葉区の花壇大手町町内会と茨城県の団体と支援提携を結んでいる。花壇大手町町内会は、訓練の際に、支援に駆けつけている。


町内会幹部の不在を想定しての訓練を

 防火・防災訓練後に開かれる反省会には、こんな意見が寄せられた。
「実際に担架に人を乗せて訓練したことで、人の重みを実感した」「災害時には誰でもパニックになる。訓練を繰り返すことにより、自分の取るべき行動が少しずつ理解できるようになるのでは」などの訓練の大切さを訴える声。
「班ごとに設けられているテントの標示が分かりにくかった。旗を立てるなどみんながすぐ分かるような標示を」「安全確認では、建物は大丈夫だが、箪笥の下敷きになっているかもしれない。家の人の安否を確認しないと完全とは言えない。たいへんむずかしいことだと思う」「町内会幹部が不在を想定した本部設置が可能か訓練してみるのもより実践的では」などの改善を求め、より具体的な訓練のあり方を求める意見も多く出された。
 災害時に適確に対応できるかは、そこにどれだけの「人材」がいるかにかかっていると言われる。その人材は、福住町内会のように訓練とその反省、いわば試行錯誤を重ねる中で生まれてくるものであろう。