「あした通信」209号掲載
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子どもの安全は地域で守ろう
栃木県壬生町 壬生町睦地区コミュニティ推進協議会
 栃木県壬生町の壬生町睦地区コミュニティ推進協議会(会長 高橋悦子さん)では、「子どもの安全は地域で守ろう」と親子が一緒になっての登校時の通学路の安全点検活動や、子どもの安全をテーマにしたワークショップなどを開催し、防犯組合、交通安全協会、学校と連携して活動を進めている。


通学路の安全点検を親子で実施

 東武宇都宮線おもちゃのまち駅の近辺に広がる栃木県壬生町の睦地区は、かつては純農村地域だったが、昭和40年代以降、おもちゃ工場団地の開発や医科大学病院の開設にあわせて急速に発展。平成17年には、人口約7,000人、世帯数2,800まで増えている。壬生町睦地区コミュニティ協議会は、昭和53年に県のコミュニティづくりのモデル地区として指定を受けて発足し、活動を続けている。
 平成12年に開通した北関東自動車道をはじめ、主要県道が町内を縦横に通っているなど、睦地区は車での移動に非常に便利な地域だ。それだけに、交通事故の発生や犯罪者が入り込む危険性も高い。
 こういった地域状況から子どもたちをとりまく環境に危機感を抱き、同協議会では、平成16年9月から、「下校時の安全ボランティア(スクールガード)」を住民から募集して、学校から家までの道のりを一緒に帰るなど安全対策に努めてきた。
 ボランティアをはじめて間もない頃。県内の旧今市市で小学生が犠牲になる痛ましい事件が起こった。この事件をきっかけに、改めて活動を見直し、子どもたちと一緒になって通学路を点検する活動を始めた。点検活動の中心を担ったのは、協議会の一部門で、子育て中の親世代がメンバーになっている「育成部会」。18年10月中を点検期間として、協議会を構成する11の自治会単位で実施した。ただ、点検活動といっても漫然と歩いたのでは意味がない。そこであらかじめ、スクールガードのメンバーが、これまでの経験から得たことを事前に点検の注意箇所をアドバイスした。これをもとに、各自治会ごとに育成部員が中心となり、普段の集団登校をしているグループごとに、空き地・空き家、不審者の出そうな場所、交通の危険箇所などをチェックしていった。点検グループの数は、19にも及んだ。そして育成部員は、各自治会の点検状況を取りまとめていった。
 その後、点検活動を行なった親子をはじめ、町教育委員会委員長、防犯組合長、交通安全支部長などが出席し、報告会をコミュニティセンターで開いた。このなかでは、「雨や雪の日の通学路の注意箇所」「大型店舗の駐車場出入回の危険性」などが報告され、子どもたちからも、「自分たちが歩く際に注意する場所」などの発表があった。それらを受けて、警察OBのスクールガードのリーダーから、指摘された危険箇所への個別の具体的対応策についてアドバイスがあった。さらに、行政への要望事項として「危険箇所への横断歩道の設置」「通学時間帯の車両通行止め」等があげられた。
 この活動を進めるなかで、育成部員の意識が変わってきたと、同協議会の高橋悦子会長は言う。「これまでは、たまたま育成部員という“役”に選ばれ、どちらかというと消極的な参加の人が多かったが、自ら点検活動をしたことで、『自分たち自身が子どもの安全を守っていくんだ』という意識が芽生えてきた」と。そして、同協議会では、この芽生えた当事者意識を大切にしようと、点検結果の報告書をとりまとめ、この活動に参加した人たちに配布した。
 また、点検活動で危険が指摘された交差点には、交通安全協会支部が看板を設置するなど、素早い対応もあったという。
 なお、点検に先立つ6月には、ワークショップを開いている。子どもに何か起きるとすぐに学校側の責任を問う風潮があるが、安全の基盤となるのは「家庭」や「地域」ではないかと、テーマを「家庭の教育と安全、地域の教育力と安全」とした。ここには、協議会役員、育成部員をはじめ、小学校教員、防犯組合長、交通安全支部等の各種団体に加え、日頃から子どもに触れる機会の多い、例えば、駐輪場の管理人などにも参加してもらった。ここでは、家庭で何ができるのか、地域で何ができるのかをそれぞれ話し合った。
 家庭でできることとして「家庭団築・話し合いの時間を持つ」「夕食後の1分間スピーチ」「親子で遊ぶ」「子どもの目線で話す」「家族全員で話題づくりをする」「子どもの話をよく聞き、褒めるべきは褒め、注意すべきは注意する」「家庭・学校・地域で挨拶のできる子どもを育てる」「読書の時間をつくる」があげられ、地域でできることとして「地域生活環境を整備すること。そのために交流の場を多く持ち、人づくりに努力する」「近所同士のコミュニケーションを図る」「親が都合のつかない時など、気軽に近所隣に『お願いね』と言い合える大人同士の人間関係をつくる」「コミュニティで交通安全マップをつくる」などの意見が出された。


おもちゃ屋さんが会館の受付窓日となる

 冒頭に挙げたとおり、睦地区の住民は、ほとんどが昭和40年代以降、ここに引っ越してきた人たち。いわば“よそ者”同士が集まる地域で、絆は薄かったといえよう。そこでコミュニティ協議会をつくり、自分たちで、地域をつくりあげてきたという自負もある。それを物語るのがコミュニティセンターの管理運営。昨年1年間で延べ11,000人が利用し、ほぼ毎日何らかの会合が持たれているが、正規の職員はおろか常駐のスタッフもいない。センター利用の申し込みの受け付けは、近くのおもちゃ屋さんが担当。利用者はおもちゃ屋さんに行って、利用申請書に利用時間等を書き込む。それを管理するのが、協議会に設けられているコミュニティセンター運営委員会。また、活動の経過はコミュニティ広報(2,000部発行)に掲載している。写真店を営む事務局長が写真を担当するなど、手作りの広報紙だ。


お互いを助け合うコミュニティをめざして

 今後の活動としては、高齢者の居場所づくりと、防災面の活動に力を入れていきたいと高橋会長は語る。新住民が多く、災害時の避難場所などが共通理解されていないという問題はあるが、それだけに、通学路の点検活動で芽生えた「自分たちの地域は自分たちで守っていこう」という意識を活かし、新しい人を巻き込んで、主体的に参加し、互いに助け合うコミュニティづくりを目指している。