「あした通信」184号掲載
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女性の視点で公共施設などのトイレを改善
秋田県能代市 のしろ生活学校
 秋田県能代市ののしろ生活学校(代表・武井牧子さん)では、高齢者や車椅子で生活している人たちが公共施設やスーパーマーケットで安心してトイレを使用できるようにしていこうと、アンケートや点検活動を実施し、その結果をもとに対話集会を開催した。その結果使いやすい手すりの設置や荷物掛けの改善などを実現し、使いやすいトイレづくりなどバリアフリー化を図っている。


街頭アンケートで女性の意見聞き

「私の身長は158cmですが、どこの店に行っても、トイレの荷物掛けの位置が高くて困っています」「荷物置き場は狭く、使うのに不便でした」―これらは、同校のメンバーが昨年、実施した公共施設やスーパーマーケットのトイレに対するアンケートに答えた能代市内の女性の声である。
 同校がトイレの問題に取り組みはじめたきっかけを、代表の武井さんは「メンバー自身が高齢者の仲間入りするなかで、買い物などの外出時に公共施設やスーパーでトイレを利用したとき、手すりがなく、あるいは荷物掛けが高くて困ったという自らの体験から」と語っている。
 最初に実施したのが、女性を対象にしたトイレに関するアンケート調査。昨年3回にわたり、街頭に出て、道行く女性にアンケート用紙を配り、調査の協力をお願いした。3回の調査の回答者は延べ393人にものぼった。回答者の年代をみると、半数以上を60代が占めていた。質問項目としては、市役所、文化会館、福社会館などの公共施設とスーパーなどの市内の大型店にわけ、それぞれ「手すり、荷物掛け、荷物置き場は必要か」、「荷物掛けの高さは適切か」、さらに「洋式トイレの数は足りているか」、「洋式・和式の表示の有無」などについて「はい、いいえ」で回答を求めた。


半数近くが荷物掛けの高さは適切でないと回答

 その結果、公共施設、スーパーともに9割を超える人が「手すり、荷物掛け、荷物置き場はあったほうがよい」、と答え、現在ある荷物掛けの高さについては、半数近くの人が適切ではないと回答を寄せた。さらに「文化会館に対しては8割の人が洋式トイレが不足している」と答えた。
 また、具体的に問題点や改善してほしい点を聞いたところ、冒頭に紹介したように荷物掛けの位置が高い、荷物置き場が狭いなどの意見のほかに、「だんだん歳をとるにつれて手すりの必要性を感じる」「荷物掛けの位置はせめて目の高さに」「荷物置き場は丈夫なものに」などの声が寄せられた。一方、20代の女性は「まだ、若いのでとくに気にはなりませんが、高齢者のことを考えると、荷物置き場などはぜひ必要だと思う」と回答している。


女性の視点が欠けていたトイレ

 アシケート調査のほかに、メンバーは、公共施設やスーパーのトイレの点検活動もあわせて実施し、とくに公共施設のほうがスーパーに比べ、荷物置き場が設置されていないなど高齢者への配慮が欠けている点などがわかった。
 こうした事前の準備を経て、昨年7月に市役所と市内にあるスーパーなど大型店8店舗のうち3店舗の参加を得て、対話集会を開催した。席上、同校からは、アンケート調査や点検活動の結果を踏まえ、スーパーには、
@和式・洋式を問わず、立ち上りを楽にするためにも、手すりが必要。
Aその手すりは、従来の車椅子用のトイレにあるような太く、長いものだと場所をとり、経費もかかるので、小さなバー状のものでも良いのではないか。
B高齢者は盗難を心配して自分の荷物をトイレの中に持ち込むため、荷物掛けや荷物置き場がどうしても必要。
C荷物掛けを取り付ける位置は、目の高さであれば、必ずしもドアでなくても、横の壁面などでも良いのではないか。
など、利用しやすさを第一に考えた具体的な改善策を提示し要望した。
 これに対しスーパー側は、「トイレを作る人も、荷物掛けを取り付ける人も男性なので、自分の高さに合わせているのかもしれない。改善をしたい」、「買い物をした人が荷物を持ってトイレに入るとは思っていなかったので、荷物置き場も小さくても、私たちは気にならなかった。見直したい」という回答をした。そして、「こうしたお客の話はなかなか聞けないので出席してよかった」とつけ加えた。
 さらに公共施設関係では、@中央公民館の車椅子用トイレの前は物置状態で利用できなかったこと、A高齢者にとって文化会館のトイレの階段が大変なこと、そのためスロープと洋式トイレを設置してほしいこと、B福社会館では、トイレ内に段差があること、また、板サンダルにはきかえて、トイレに入るようになっているが、板サンダルは滑りやすく怖い、とくにお年寄りには危険、など、一つ一つの施設ごとに、問題点を指摘し改善を要望していった。
 また、対話集会への出席依頼をしたにもかかわらず、当日、都合で出席できなかったスーパー5店舗に対しても、メンバーが出向き、調査結果や対話集会の模様を報告し、改善を求めていった。
 これらの要望に対し、その後、一部のスーパーや公共施設では、トイレの改善に乗り出し、荷物掛けを適切な高さにする、荷物置き場を頑丈なものにする、バー状の手すりの設置などが実行に移されていった。
 今後、同校では、引き続き点検やさらには再度の対話集会の開催をも視野に入れ、高齢者に使いやすいトイレづくりをめざして活動を続けていくことにしている。
 あわせて、トイレだけでなく、公共施設の階段などにも眼を向け、まち全体をバリアフリーにしていこうとメンバーは話し合っている。