令和元年度あしたのまち・くらしづくり活動賞 審査講評
あしたのまち・くらしづくり活動賞中央審査委員会委員長 日高昭夫(山梨学院大学法学部特任教授)
 公益財団法人あしたの日本を創る協会は、1958年度からまちづくり・くらしづくりの活動を表彰する事業を行ってきました。その間、昨年度までの61年間の応募総数は7,252件、現行の「あしたのまち・くらしづくり活動賞」となった2006年度以降では、昨年度までの累計で応募総数2,580件、年度平均応募数は198件となります。これに対して、今年度の応募数は195件となり、昨年度より減少したものの、ほぼ平均的な応募がありました。当協会の情報誌やホームページでのPRに加えて、読売新聞、NHK、後援団体、都道府県協議会、NPO・市民活動支援センターなどに募集の呼びかけにご協力いただきました。今年度の全般的な特徴は、NPO法人の応募件数が多かったことです。まちづくり・くらしづくり分野におけるNPO法人の活動の成果が表れてきたものと思われます。このうち24件が最終の書類審査対象としてノミネートされ、中央審査委員会での厳正かつ公平な選考を経て、内閣総理大臣賞、内閣官房長官賞、総務大臣賞が各1団体、主催者賞が5団体、計8団体が入賞団体として決定されました。ここでは、中央審査委員会での協議に基づく審査結果を取りまとめ、講評することとします。
 内閣総理大臣賞は、岩手県陸前高田市の特定非営利活動法人SETが受賞しました。東日本大震災後の地域コミュニティ再生に、内(広田町の地域住民)と外(全国の若者、特に中高生と大学生)とをリンクするユニークな事業(修学旅行民宿、未来開拓プロジェクト、大学生を対象とした課題解決型人材育成プログラムであるCharenge Maker Study Programなど)の企画運営を通じて、多大な貢献を継続的に行っています。こうした開放性の高いプログラムを通じて、現地に移住して活動する若者が20名を超えるなど、大きな成果を挙げていることがきわめて高く評価されました。また、ソーシャルビジネスの考え方と手法を用いて、単なる「復興や支援」ではなく、これからの日本が直面する人口減少社会を見据えた「まちづくり・社会づくり」という観点から、活動の持続可能性と他地域への応用可能性を目指している点も高く評価されました。
 内閣官房長官賞は、宮城県大崎市の特定非営利活動法人鳴子の米プロジェクトが受賞しました。山間地域の農業に、CSA(Community Supported Agriculture, 地域支援型農業)というコンセプトを導入して、県の農業試験場等の協力を得て独自に開発した「ゆきむすび」という地域ブランド米の事前予約生産販売に成功した稀有な事例です。すでに13年の実績があり、地域の多くの人々がかかわり地域力を生かしながら、農業生産の安定だけでなく、農村景観の維持、「食べ手」(消費者)との交流・人材育成、地域の食文化の発信、観光の活性化、CSAの普及などの効果を挙げていることが高く評価されました。山間地の農村の在り方として注目すべき先進事例といえます。
 総務大臣賞は、熊本県山鹿市の特定非営利活動法人岳間ほっとネットが受賞しました。高齢化率45%の超高齢社会の中山間地域で、「ないものねだりよりあるもの探しで地域づくり」というコンセプトを地域住民が共有し、自然に恵まれた「当たり前の日常生活」を持続するという最終目標を掲げながら、ソーシャル(コミュニティ)ビジネスの手法を用いた地域の活性化に取り組んでいます。特に、小学校の廃校後の活用計画を話し合う過程で、各集落の自治会を基盤に、住民インタビューや全世帯アンケートによる住民ニーズの把握や地域資源の再発見等を行うという住民参加の手法を取り入れながら、その廃校舎を再利用して、地域資源を活かした都市住民・若者・学生等との交流、起業支援、教育、情報発信、食育など、創造的な取組を行い、成果を挙げていることが高く評価されました。
 主催者賞は、茨城県大洗町の一般社団法人ユニバーサル・ビーチ協会、埼玉県狭山市の認定特定非営利活動法人ユーアイネット柏原、東京都町田市のつくし野ビオトーププロジェクト、神奈川県横浜市青葉区の特定非営利活動法人森ノオト、そして熊本県熊本市東区のNPO法人みるくらぶ、の5団体が受賞しました。一般社団法人ユニバーサル・ビーチ協会は、大洗海水浴場をベースとするライフ・セービングの仲間がユニバーサルを「みんなで一緒に楽しむ」と定義し、浜辺を活用してその実現を目指すユニークな取組を行っています。地域住民、行政職員、学生、学識者など幅広い分野の参加者と共に学び・議論して大洗町に提案し、ユニバーサル・ビーチを実現していることが評価されました。認定特定非営利活動法人ユーアイネット柏原は、高齢化する自治会の機能の一部を代替し、持続可能性を支える有償ボランティアなどを組織して新たな相互扶助の機能を提供する、内発的で機動的なNPO法人として、 都市近郊ニュータウンの少子高齢化に伴う地域コミュニティ課題への対応のあり方を示すモデルを示し、同様の課題を抱える大規模団地でも応用可能な普遍性をもつ活動であることが評価されました。つくし野ビオトーププロジェクトは、大都市近郊における、住民参加による体験型環境教育・学習活動のモデルとして、先駆的な取組が評価されました。1つの学校でのビオトープ整備から出発し、地域ぐるみの活動に発展して、14年間で延べ参加者数11,000名を超えるなど、事業の継続性とそのニーズの存在が実証されています。特定非営利活動法人森ノオトは、都市住民によるWebメディアを活用したユニークな環境・エコロジー運動として注目されます。特に、「寄付で支えるメディア」という自主性を堅持して、地域で子育て中の女性を中心に「市民ライター」の養成を継続して行い、約50名がボランティアのライターとして実際に地域に入って取材活動と記事執筆を行っています。この市民ライター養成は、環境・エコロジー分野を超えて広く地域課題解決のための住民参加の有効な手法としての普遍性を内在しているという点でも評価されました。NPO法人みるくらぶは、行政サービスの対象になりにくい不登校・いじめ・虐待などの孤立した育児環境の改善をねらいに活動を継続し、「親子居場所事業」などより広く世代間交流を促す活動に取り組んでいます。特に、2016年の熊本地震以降、出会いの場をつくるコミュニティワーク、被災による学習の遅れを懸念する子どもたちへの学習サポートなど、行政支援では難しい被災者の実態に応じたきめ細かなサポートを継続していることが評価されました。
 今回の入賞が、あしたの日本の地域リーダーとして、各団体のさらなる励みと飛躍の礎となることを心から期待します。と同時に、今回入賞に至らなかった団体のレポートも、日本が直面している地域課題に正面から挑戦し目に見える成果を挙げているものばかりで、深く心を動かされました。おわりに、少子高齢化、人口減少社会へと急激に移行する日本の地域社会のあしたに確実な希望の明かりを灯してくれたすべての応募団体に心よりの感謝を申し上げて、講評に代えます。