パネルディスカッション |
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身近な子育て応援を考える〜世代間交流と地域コミュニティの役割〜 |
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パネリスト
鳥 越 皓 之(早稲田大学人間科学学術院教授)
中 橋 恵美子(NPO法人わははネット代表)
池 本 美 香(日本総合研究所主任研究員)
笹 倉 武 史(NPO法人ナルク丹波事務局長)
コーディネーター
好 本 惠(アナウンサー)
好本 かつて地域には、子育て能力がありました。しかし、今、特に都市では子育て家族は孤立しているといえます。子どもを産み、育てることに喜びを実感できる社会を実現するためにどうしたらいいのでしょうか? 子育て応援を実践している方、世代間の交流活動をしている方、子育て応援やコミュニティについて研究をしている方々にご登壇いただき、活動の紹介をいただきながら、いつでも、だれでも、どこでも気軽にできる子育て応援活動やコミュニティづくりを活発にしていくにはどうしたらいいのか、その手がかりを探りたいと思います。最初に中橋さんお願いいたします。
中橋 育児をしていて、「子育てをわかってくれない」という気持になり、同じ年齢の子どもを持つお母さんたちなら、わかってくれるだろうと「わははネット」という育児サークルをつくったのが活動の始めです。もっとも、いろいろな世代の人たちに助けられての活動ですので、今では、それは偏った思いだったと感じています。
活動の柱は四つ。一つが病院、産院、お店などの地域密着型子育て情報誌を、毎回25,000部ほど発行しています。また、全国に先がけてパソコンや携帯電話での、子育て情報の配信サービスを始めています。それにイベントや研修。さらに「つどいの広場」。これは、坂出市と高松市の2か所で、商店街の空き店舗を借りて開いています。子育ての当事者だけでの活動には限界があると感じ、地域の人にも参加して欲しいと思い、常設の場として始めました。利用料は1回100円ですが、家賃が15万円。最初は商店街や地域の人に寄付をお願いしましたが、今は市からの委託事業で運営しています。
窓越しに手を合わせたおじいちゃん
中橋 ここは、ガラス張りで外から中がよく見えます。ある日、おじいちゃんが中を見て、手を合わせて拝んでいました。外に出て、「おじいちゃん。中に入ってお茶でも」と声をかけたら、「こんなにぎやかな子どもの声を聞くのは久しぶり」と言って涙ぐんでいるんです。「いつでも遊びに来て」と言うと、毎日のように遊びに来てくれます。最初は、お母さんたちも「おじいちゃん大丈夫?」とか声をかけていたのですけれど、今ではほったらかしです。でも、子どもはおじいちゃんが来るのが楽しみなのです。子どもは、ミカンを食べたくてもむくことができない。そこで、おじいちゃんにミカンを持っていくと、ミカンをむいてもらう。「ありがとう」と満面の笑みを浮かべて子どもが言うと、おじいちゃんも元気になってくる。そんな交流をしながら日々運営しています。
ほかにも、子育てタクシーや子育てマンションなどのツールを編み出して活動に取り入れています。子育てタクシーといのは、妊婦が出産のため、タクシーで病院に行くとき、車内で破水したら、「おれの車のシートを汚すなよ」と言われたということを聞いて発案しました。妊婦送迎、お母さんが病気のとき子どもの保育園への送迎、夜間の救急とか、いくつかのパターンを企画し、タクシー会社と交渉しました。学齢期の子どもだと、お父さんお母さんにも、先生にも相談できないことでも、顔見知りの運転手さんに相談するということが実際に起きています。
笹倉 ナルクは「ニッポン・アクティブライフ・クラブ」の頭文字を取り、NALCと略していますが、全国組織の団体で、125支部、会員数は26,000人。私たちは、その丹波支部という位置づけです。
子育て支援と高齢者の自立支援活動を主にしており、「ボランティア活動した時間を預託し、将来自分や家族が困ったときに預託時間を引き出して会員から支援を受ける」という時間預託という制度をとっています。
子育て支援活動は四つの活動をしています。一つが「里山再生と子どもの冒険広場」。里山1,000坪を無償で借り、2年前から整備を始めました。毎土曜日行なっています。また、月に1回、里山祭りというイベントもし、子どもの健全育成と里山の再生を兼ねた活動をしています。
二つ目は外遊び、群れ遊びをねらいとし「丹波っ子広場」を3年継続しています。小さな子どもから大きな子どもまでがいろいろな遊びをしていますが、小学校3年生ぐらいになりますと塾やけいこ事で、これまで来ていた子どもが遊びに来なくなるという現実もあります。
三つ目が学童保育支援で、手づくり遊びの伝承をしていますが、会員には人気のある活動で、月に1回、3施設を回っています。四つ目が、三世代交流で「あそびのひろば」という名前で活動しております。秘密の基地づくり、野鳥の観察、山登り、木工遊びなどを、山の中や田んぼのあぜ道、川などでしています。
不細工にこける子どもに体操教室出前
笹倉 来年度から小学校に体操の出前教室を考えています。ここの小学校では、跳び箱やマットを使った体育の授業は行なわれていません。ご存知のように、今の子どもたちは、転ぶとき顔面を打ち付けるなど、不細工にこける子どもがいます。先生に「バランスの悪い子どもがいっぱいいるから、跳び箱などをしては」と話しましても、「とんでもない、できません」という答えが返ってきました。そこで、この活動をしようと、今準備を進めています。
池本 コミュニティづくりの議論をする前に、コミュニティに割ける時間をつくるための労働政策、経済的支援策を考える必要があると考えています。というのは「経済的な理由から休めない」「正社員の勤務形態が残業を前提としている」「長時間保育所に預けなくてはできないような働き方しかできない」などの現状があります。ノルウェーなどでは育児休業中の所得が80%〜100%保障されますし、育児休暇をとれて、0歳児保育をしないでいるところもあります。正社員でも短時間の勤務ができるという制度も保障されています。日本でも、そういった労働政策をする必要があるのではないかと考えています。
お母さんのキャリアアップにつながる
池本 ここでは、ニュージーランドのプレイセンターとドイツのクラインガルテンについて話題を提供したい。プレイセンターは、ニュージーランドで60年の歴史を持つ、幼児教育の施設ですが、三つの特徴を持っています。一つは、子どもが遊びを通して育つという考え。たくさんの遊びの環境が用意されていて、伸び伸び遊ぶことができる。二つ目が、子どもたちの親が、施設の運営や先生役を担う。三つ目は、親が知識やノウハウを習得するために、学習コースが設けられ、これに参加するということです。親にとっては、子育てに必要な知識、技術、そして仲間が得られるという意義があります。どうしても子育てに携わると、キャリアがおくれてしまうというイメージが付きまといますが、ここでの学習や経験が、むしろキャリアアップにもつながっています。ここに参加していた母親が、首相にもなったということもあります。
そして、親子だけではなく、祖父母、地域の高齢者、大学生などいろいろな人たちが参加して、家族、地域全体が一緒に育っていこうという基本理念のもとに活動しています。日本にも導入したいということで、協会をつくり、学習会をしています。その第1回の受講生が、現在、国分寺市でプレイセンター活動を始めています。
もう一つのクラインガルテンというのは、ドイツの都市に整備されている緑地のことですけれども、子どもの健康には土と緑が必要という医者の呼びかけで、緑地の整備が法律に定められました。1家族が100坪程で、都市に別荘地ができたような、緑豊かな環境が整備されています。
もとは子どものためにということで始まったのですけれど、環境にも、高齢者の生きがいにも、ミュニティづくりにもなっています。子どもだけでなく大人にとっても心地よい、豊かな時間を持てる空間づくりということが重要で、地域の人、高齢者が集う場所を地域の中につくっていくといいなと思います。
鳥越 一つの例をあげて話したい。江戸時代からの用水路が乱開発で汚れ、ドブ川になってしまった。市も下水路と呼称していた。あるとき、おじいさんがこの下水路で鯉を飼うことを思い付き、買ってきて餌をやり始めた。次第に自然の鯉も入ってきた。そのことが新聞に掲載された。そうすると上流の飲料会社は、水を流すのに注意し、さらにその上流の土木関係の会社も砂を流すのに注意し始めた。なぜかというと、新聞にたたかれますから。そうすると水がきれいになり、ハヤなどほかの小魚も入ってくるようになった。子どもたちが、「こんなドブ川に魚がいる」とのぞき込むようになり、川に関心を持ち始めた。このような川だと、普通、暗渠するのですが、行政は、柵を景観を活かしたものに変え、川に下りられるようにした。下水路の道が散歩道として使われ、交流の場となった。川沿いに花壇もつくられた。今まで子どもたちは近所の人との会話がなかったのですが、魚を媒介にして、「おじさん、えさちょうだい」とか言い始めた。さらに川のメンテナンス、掃除をしようとみんなで集まって掃除をするようになった。これはまた一つの活動になり、コミュニティの組織がこれを管理し始めた。
結局、意図せず三世代が交流できるようになったわけです。川がきれいになって、環境も整備され、コミュニティも強くなったというめでたい話です。もちろん成功しなかった例もいっぱいあるのですけれども、地域の活性化と世代間交流は、セットになっているということを言いたい。そしてそのノウハウがかなりこの中に凝縮されているように思います。
子どもに「仕事」の場を
鳥越 もう一つ、私たちの心には葛藤があります。三世代が理想と思っている反面、二世代で暮らすのがいいという考えもあわせて持っています。三世代は、おじいさんおばあさんの知恵を活用できる、生きること死ぬことを身近に感じられる、お父さんお母さん世代をカバーできる。しかし、一方で個の自立という観点からいうと、上の世代が威張るという文化がある。自分を自分で管理するという文化をうまくつくれなかったことによる難しい問題もあります。この二つの理想を同時にかなえるのは無理です。どうするかというと、家族は二世代にしましょう。そして、三世代のいいところを活かすのは、コミュニティにおまかせしようとなっています。まかされたコミュニティは「えっ」ということになります。動けないですから。そこで、行政が介入することになりました。昭和35年以降、日本のコミュニティは大変な勢いで崩壊しましたが、それを防ぐため、当時の自治省、自治体が動き、大切なことだということで、いろいろ補助で対応してきました。
で、地域社会が三世代を引き受けたときにどんなものをつくっていったらいいのかが課題になっています。一言だけ言いますと、コミュニティで子どもを保護するだけという形はよくないなと思っています。子どもが活動する場、できれば仕事を与えてやる。これがどうも一番活き活きしているように思うのです。
池本 今の子どもに仕事を与えるということで言えば、プレイセンターは、「遊びが子どもの仕事」という考え方で進めています。子どもも自然な動物と考えれば、体を使い、泥んこで遊べる環境をつくっていくということは大切です。子どもだけでなく、大人も動物なので、それに関わると元気になる。子どもの生物的なことにふさわしい遊びの環境、自然の環境をつくっていくことが大人も、高齢者もハッピーになるのではないかなと思います。
中橋 今の話とも関連するのですが、「将来何になりたいか」と授業で聞いたら、娘の友達が、「お母さんになりたい」と言ったそうです。そうしたら、私の娘が「やめとき、やめとき。お母さんはなかなか大変な仕事だ」と言ったというのです。なぜそう言ったかというと、夏休みに、毎日のように広場に遊びに来て、おむつをかえたり、ご飯たべさせたり手伝っているのです。楽しんでしているのかと思ったら、案外大変だと思っていたみたいなのです。でも、娘はいい母親になるだろうなと思ったのです。子育てに、期待と夢ばかりを持たずに、苦労もある、でもかわいらしいものなのだということを理解しています。それは日々の生活の中で仕事として関わり、体験したことがよかったと思うのです。今、決定的に体験が減ってきていますから、仕事は何でもいいのです。もっと若い世代に経験の場を与えてあげられればいいなあと思っています。
好本 人間関係で、ご苦労もあると思うのですが、活動を自分たちの喜びにもしていき、ほかの人にも喜びを与えられるようにするには、何かコツがあったら、ぜひお話を。
池本 プレイセンターでは、子どもへの接し方、人間関係のトラブルの防ぎ方などの基本的なことを学習してから、スタートしています。それが学習のメーンの部分になっています。ニュージーランドですと、ある程度、学校教育でそのような基礎があって、プラス勉強するという形です。しかし、日本の地域活動では、自発的に自分の能力を持ち寄って助け合うという経験が、諸外国と比べて少ないので、親自身、高齢者も学び直す必要があるのかなと思います。高齢者が子育てにかかわる場合、昔の子育てとは、使う用具も違いますし、地域の安全性とか、そういう問題も違ってきます。世代間交流では、ぶつかって、そこで学び合うということもあるとは思うのですけれども、お互いが学び合って、歩み寄るようなことも必要かなと思っています。
鳥越 日本では、いわゆる産みの親が教育にかかわり始めたのは歴史的に見て新しいことなのです。それまではコミュニティが子どもたちを教育していて、親が教育にかかわり始めたのは、歴史的には最近のことなのです。
「平凡教育」と「非凡教育」
柳田國男の言葉を借りて言えば、今までの教育は「平凡教育」をしていた。異性、年上、親とのつき合い方、マナー、神様とのつき合い方、それから魚のとり方、田んぼの耕し方、水の差配の仕方。村の人だったら全員が知らなければならないことを、教育したわけです。ところが親が介在してきたら、「非凡教育」になった。「隣の〇〇ちゃんよりもいい成績にならないといけない」と区別をする。つまり、区別する教育を始めたのは親です。親がこれまでの教育方針を変えたのです。このことを踏まえてどう考えるかということは今後の課題です。今議論しているのは、もう一度平凡教育に帰ろうというようなニュアンスで話をしていますが、非凡教育も必要だとは思うのです。教育内容がこのように変化をしてきたということを押さえておく必要があります。
好本 最後に一言ずつメッセージを。
笹倉 定年になったらボランティアをぜひして欲しい。里山へご夫婦で行って欲しいと思います。のこぎりを差し、刈り込みばさみを持って、山へ入っていくのです。70代の女性でも結構すごいことができます。楽しい活動ですから、ぜひ里山にかかわっていただきたい。
池本 「子はかすがい」と言うように、子どもは、夫婦関係も強めるし、地域も強める。大人も幸せになれる。子どもが育つ環境を取り戻し、それを通じ大人も高齢者も、交流し、みんなが幸せになる道ではないかなと思います。子育ても大人のためというよりは、まず子どもが、本来あるべき姿でいられる環境をつくることが、コミュニティづくりにもつながっていくのかなと考えています。
中橋 楽しむということを基本にしていきたいなと思っています。広場でボランティアに来ていただく人たちの中には、否定から入る人、押しつける人も結構多いのです。しかし、それではうまくいかない。人間関係をつくった上で、「こうしたら」「ああしたら」というアドバイスをするのはいいのですが、自分と違う考え方や違う世代の人とかかわるときに、「あ、こんな考え方もあるのだ。おもしろいな」と楽しむぐらいの余裕をみんなが持っていけばうまくいくのかと思います。
鳥越 団塊の世代は知識を持っています。日本が先進国になった時代に活躍した人たちです。これは日本の財産です。この人たちが、今、ほとんどただで使えるということがすごいことで、この能力を生かすべきです。
好本 子育て応援というのは、活き活きしたコミュニティづくりのきっかけになるのだなということがわかりました。そして、その活動は、子育て中で大変な世代にとっては、とてもありがたいことだし、学びの場でもある。子どもたちにとっては、そこでいろいろなことを学べる。それこそ、上手にこける方法も学べる場でもある。シルバー世代にとっては、活き活きしたエネルギーをもらえるし、生きがいも得られる場である。まさに一石三鳥のいいところなのだということを感じました。身近な、できるところからぜひ、私たち参加していきたいなと思います。皆様、ありがとうございました。 |
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