平成17年度世代間交流シンポジウムの内容
パネルディスカッション
コミュニティの再生〜世代を超え、時代を超えて家族・地域の絆を見直す〜
パネリスト
 阿刀田   高(作家)
 大日向 雅 美(恵泉女学園大学大学院教授)
 塩 崎 泰 雄(NPO法人桐生地域情報ネットワーク理事長)
 多 田 千 尋(芸術教育研究所所長・おもちゃ美術館館長)
コーディネーター
 好 本   恵(フリーアナウンサー)


好本 最初に、みなさんの活動をお話しいただき、そのなかから世代間交流には、ご年配の方には、お子さんたちには、そして働き盛りの方には、どのような意義があるのか、その意義を考えていきたいと思います。大日向さんからお願いいたします。


地域の人たちのボランティア子育て支援

大日向 東京都港区で、幼稚園の跡地を活用して、子育てや家族支援の拠点づくりをめざすNPO法人あい・ぽーとステーションという団体を立ち上げ活動をしています。活動の一つに「ひろば」の活動があります。ここでは親子で遊ぶことを基本としています。年輩の人が、昔の歌などお母さんや子どもたちに教えたり、ジャズの夕べ、餅つき大会などのイベントを開き、楽しんでいます。また、ミニ図書館も用意して、お母さん方が、お子さんの傍らで読書をしたり、あるいは講座なども企画し、勉強の場も提供しています。また、理由を問わず、お子さんをお預かりする一時保育も実施しています。一人になる時間がなく、トイレに行くこともままならないお母さん方に「ホッ」とできる時間を提供しています。さらには、大学との共同で野菜づくりを、さらには子育て支援者の養成講座もしています。これらの事業は、常勤のスタッフだけでできることではなく、地域の人たちがボランティアとして助けてくださっています。
このことで、もちろん支援を受けられるお母さん方も喜んでくださいますが、支援をされる中高年の方々にとっても、ご自分の居場所づくりになっています。このなかで、「誰かの役に立つことがこんなにうれいしいことを始めて知った」と言う声をいただいております。
 支援者の養成講座を受講される方は、人生経験も豊富ですが、まっさらな気持ちで今の子育て事情などを学んでいただき、「若い人たちの伴奏者になれるのは、この歳になっていろいろな人生経験があるからこそできる」と言われます。そのような人たちに支えられながら運営しています。


大学生が絹織物のまちの歴史をたどる

塩崎 平成十三年にNPO法人桐生地域情報ネットワークを立ち上げました。私たちの活動は、「情報化を通じて、まちづくり、ひとづくり」のお手伝いをすることです。桐生市はご存知のように絹織物の町です。撚糸用水車といいまして、動力源としての水車がいたるところに廻っていました。また、強い縒(よ)りの糸を作る機械などがありました。このようなことは記録として残しておかなければと、群馬大学の学生などが、水車を作る職人や絹織物を織る職人を取材して本にしたり、職人主役のイベントを開催するなどの活動をしています。
 このなかで、八丁撚糸機という水車を動力源にした機械があります。江戸時代後期に作られたものなのですが、縒(よ)りの強さは今の機械でもできないことがわかりました。そこで、その保存会をつくり、壊れた機械を一年かけて稼動するようにしました。そうすると小学校の子どもたちが見にきます。その説明を高齢者の方が嬉々として説明されている。子どもたちも、このような機械が桐生で発明されたということを初めて知り、お年寄りと子どもたちが楽しいひと時を過ごしています。


シニアがおもちゃドクターとして活躍

多田 おもちゃ美術館には、年間およそ八千人ほどの人が訪れますが、単に展示するのではなく、おもちゃという道具を使って、人と人を結び付けられないかと考えています。そのひとつが、おもちゃドクターです。ドクターは、JRや大手家電メーカー出身のエンジニアの方になっていただいています。一流の技術を持ちながらも、退職して、家でくすぶっている方が多い。そんな方々におもちゃドクターになってもらっています。ドクターがおもちゃを治す姿を子どもたちは、尊敬のまなざしで見つめています。そして、シニア層にとっては、おもちゃは買うものではなく、創るものです。おもちゃ教室も開催し、ものつくりのおもしろさを伝えてもらっています。

好本 阿刀田さん。皆さんのお話をお聞きしていかがですか。


いい雰囲気で活動していくことが大事

阿刀田 このごろ、リタイアした仲間を見ていますと、社会的に役に立ちたいと、ほとんどの人が何かをやっておられる。それを見て日本も変わったなと思います。ピラミッドの階段を上る人生はやってしまったから、別なことを一からやってみようと気持ちが溢れています。しかし、給料をもらっているならば、つらい仕事であろうと頑張るのですが、ボランティアだと基本的に楽しくなければ意味がない。いじわるなどをされたら「何でこんなことをしているのか」となります。いい雰囲気で活動をしていくことが必要になってくると思います。そうすると、いい雰囲気を保つためのオルガナイザーの役割が大事で、その点がポイントだと思います。

好本 次に、子どもにとって世代間の交流というのはどのような意味を持っているのでしょうか?


アリの行列を眺める子どもに付き合うことができるシニア

大日向 若い親御さんは、とくに初めての子育てだと、どうしても頭で理想の子育て追いがちです。子どものことを思っているのに、子どもの側に立てない、子どものリズムに合わせられないところがあります。一方で年輩の方は、少々のトラブルは子どもの成長に影響がないことをご存知です。いろんなことがあっても子どもは育つということを豊かな人生経験で知っておられる。価値観がいろいろあった方が、子どもにも救いになると思います。そして、歳をとると若いころのように機敏には動けないけれど、そのゆったりしたリズムは子どもにあっています。

多田 シニアと子どもの交流の場をつくってみてわかるのですが、生活の速度が子どもと年輩の方では似ているように思います。現役世代のお父さん、お母さんは多忙で、あまり子どもの相手をしてあげられません。でもシニア世代は、アリの行列を眺める子どもに付き合うこともできます。そしてお年寄りは教えたがり屋さんが多い。一方、子どもは「どうして、どうして」と逆に教わりたがり屋さんが多い。「話したがり屋さん」の近くには、「聞きたがり屋さん」を置くべきではないかと思います。


最初は怒られるけれど、親密になり一緒に呑んだりと

塩崎 学生にお年寄りと話しをさせるとまず、怒られます。礼儀も知らないし、何も知らないで会いにいくから、「おまえ何も調べてこないのか」と。しかし、次に「どうもすみません」と交流がはじまり、次第にお年寄りに尊敬の念を抱き、親密になっていきます。出版後もイベントを一緒に企画し、出資したり、呑みにいったりして交流が続いています。
先ほど阿刀田さんが、「社会に役に立ちたい」とか、「オルガナイズする人が必要だ」というお話がありましたが、それはなにかというと、地域からもらった何かを「ハッ」と気づく瞬間があるのではないかと思います。「目から鱗」といいますか、そのような一瞬があるのではなか、みなさんそういう一瞬があると思います。


お年寄りが知恵と技を発揮してくれる

多田 全国各地にいきましたが、気付いてみれば自分の足元をみていなかったということを痛感しました。というのは、昨年一月、落合第二小学校校庭に「落合の里」を作る構想が持ち上がりました。町内会、PTA、教職員が協力して水田、畑、池など作ってきました。そのとき、近くのお年寄りたちが、たとえば、「神田川と妙正寺川の二筋の川が流れ、落ち合っているから『落合』というのだよ。だからせせらぎを作るんだったら、二筋に」などのアドバイスをいただきました。また、ハスで有名な大賀博士がここに住んでいたのだから、「池をつくったら、先生に敬意を表してハスを浮かべなさい」などと指摘されます。そのように地域でアクションを起こすと、お年寄りが知恵と技を発揮してくれます。そして、大人たちが真剣に働く姿をみた子どもたちは、自らも参加するようになると思います。

阿刀田 今のお話で、今の若い人たちは、ものを知らないのです。これは単純に良く言われる意味でもそうですし、情報が「べた」で入ってきて、経験の裏打ちのない、知識として持っているのにすぎない。しかし、職人さんの話を聞くと「えっ、そうだったのか」と、びっくりして感動することになります。そのところをうまく按配すると、若い人たちは食いついてきます。

好本 まさに実感教育で、生きる力にかかわる教育が必要なのでしよう。
 では、年輩の人にとっての世代間交流の意義はいかがでしょうか。


他人に求められることの喜びを抱ける場があること

大日向 日本の社会では子育てが終わったら、女性の居場所はあまり用意されていません。五十〜六十代の女性たちは、まだ、体力があり元気なのに、自分の子どもたちは自立するし、会社では年齢制限で門前払いされてしまう。自分は何の役にも立たないとさびしく思っている方が多い。そういう方が「ひろば」にお手伝いしてくださると「ありがとうございます」と言われます。あべこべで、感謝するのは私たちのほうなのに。他人に求められる喜びを抱ける場所があることは、とても大事なことだと思うし、そういうものを分かちあえうる世代が増えてきたと思います。

多田 おもちゃドクターの一人が、「真っ白な手帳に、予定が書き込めることって、こんなに嬉しいこととは思わなかった」と言っていました。シニア世代も自己実現が果たせる舞台を、輝ける場を誰でも望んでおられるのではないかと思うし、必要ではないかと思います。

好本 世代が交流をしたいが、どこから手をつけていいのかわからない、という方へヒント、アドバイスを。


まず行動を、そして最後まであきらめないで形に

塩崎 私の場合、周りの人たちが見かねて手を貸してくれています。だから、最初は何でもいいから発してみる。そして最後まであきらめないで形にすることだと思います。続ることにより、人が集まってきますし、助けてくれる人がいる。「あいつは、最後までやりつづけるから、手伝ってやろう」という人たちが一人でも増えてくれればいいと思います。あきらめないことでしょうか。

好本 声を出す。あきらめない。弱くてもいいんですね。オルガナイザーは。

塩崎 そうです。弱い方が良い。強いとだめです。

大日向 黒子に徹する。主役はここに集うお母さん、お父さん、そしてボランティアの方たち。私たちは黒子に徹していく。地域の方は、いろいろなことをご存知だし、みなさん動き始めてくれます。
地域には元気なお年寄りもたくさん活躍されていますが、一方で、身体をわるくされたりするお年寄りもおられる。そのような方々も、いてくださるだけでも子どもたちや若い人に、「人生ってこんなに豊かで長い」のだと、その人生を見せてくださるだけでも、すばらしいことだと申し上げたい。

多田 「落合の里」ができるまでには、地域の人の知恵や、あるいは黙々と野草などを植えていかれる方など、いろんな方がおられます。ぜひ、自分の地域に着目して欲しい。それから楽しさということと、花火のように一過性のものではなく、継続すると、楽しさの妙も出てくるのではと思います。

阿刀田 生真面目であることが立派であるとされる国で、楽しむことが極端に下手な民族かもしれないと思います。これからは楽しみながら筋を通し、創造につながっていくという楽しさを。これまでの経験を活かし、楽しさが伴う活動を考えていくべきではないかと思います。

好本 お年寄りにとっても、子どもにとっても、そして忙しい世代―私もその一人ですが―何とか、地域で関わるきっかけを、楽しさを見つけて関わっていきたいと思いました。ありがとうございました。(文責・事務局)